第5話「女装」

 知り合いが帰ってから2時間が経過。

 壁にかかっている時計が12時を示す。あ、もちろん深夜ですよ、午前零時ですよ。

「うーん、誰も来ないし、ドリンクの補充やっとこっか」

「補充? ……はい、わかりました」

 レジのすぐ後ろにあるドリンクコーナー。下の棚からドリンクの原液を一つ取りだす。

「それをそこの機械にセットして――そう。これで補充完了」

「へー、これで終わりなんですね」

 しゃがみこんで次の原液を取りだす。

「こら、千屋ちゃん。女の子なんだから足を開いてしゃがまないの」

「……いや、別に今お客さんはいないんだからいいじゃないですか。それに僕は男です」

 さっきのお客様は稀に見る人種だったんだ。そう、きっとそう。

「男子の制服が来たら、女装も終わりです」

 僕がそう言うと広永さんは、頬に手を当てて、「うーん」と考える。なんだ?

「あ、じゃあさ、千屋君が女の子っぽいポーズしたのを写真に撮って、店長がその写真を見て千屋君だって気づいたら、もう女装は終わりにするってのはどう?」

 店長に女装姿を見られる? で、でもバイトはしたいし、それで女装しなくていいのなら……。

「わ、分かりました。僕の溢れる男気を見せつけてやります!」

「ふっ」

 うぉい。今この人鼻で笑いましたよ。


「はい、いいよー。そのポーズで」

「あ、こ、こんな格好……恥ずかしい……です」

「ほら、もうちょっと胸元開けてみようか」

「ひゃぁ! い、いや、こんなの、見えちゃいますぅ……」

「うーん、もう脱いじゃおうか、いっそ」

「はあっ……そんなところ……だめぇっ!」


「いやー、よかった。熱かったよ千屋ちゃん」

「はぁ……はぁ……。ふ、ふんっ。でもこれでこんな女装ともおさらばです」

「ふふーん。そう上手くいくかな?」

後日

「千屋ちゃん! レジお願い!」

「はーい。……いらっしゃいませ、店内でお召し上がりでしょうか?」

 ……なんでまだ女装なのかしらん?

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