第7話「カツラ」
「おはようございます広永さん」
「あ、千屋君おはよう」
ここに通い始めてから、もう一週間。今日も今日とて深夜のアルバイトである。
控室のテーブルに自分の荷物(中身は女子用の制服)を置く。いつもここには広永さんと正社員さんの荷物が置いてある。けど、
「なんですか……コレ」
今日はそこにもう一つ荷物……袋がある。なんだろう?
「ああ、これはね……」
嬉しそうに広永さんが、ごそごそとその袋に手を突っ込む。そしてズボッと何かを取りだした。取りだしたその姿は多分――。
「新しいカツラ――」
「つけませんよ」
にべもない。制服を取り出してそれに着替える。さて、今日も頑張ろう。
「おい待てコラ」
首根っこをつかまれる。痛い痛い。
「なんですか広永さん」
とりあえず聞いてみる。聞いてみるけど、もう答えは分かっている。
顔は笑っているけれど、目がもう本気だもん。語っているもん。
『可愛いから早うこのカツラつけんかい』って。
「いやです! なんで女装だけでも頑張って耐えているのに、この上バリエーションを増やさないといけないんですか! 絶対つけませんよ!」
「ニコッ(早うつけんかい)」
「い、いやだから」
「ニコッッッ(早う)」
「いらっしゃいませ――」
「おお、本当にかわいい子がいっぱいいるんだな。……噂で聞いたよくいる金髪の子以外にもこんな黒髪ロングの子もいるんだ」
「は、はは。そ、そうですよ……うちには可愛い子がいっぱいいます」
「他にも前髪がぱっつんの子や、ショートカットのツンデレ娘とか」
「お、おお客様、ご注文はど、どれになさいますか?」
「あ、はいはい。えーっと、ドリンクのオレンジMサイズと……」
…………言えない。
(広永さん以外の女の子が、全員僕の女装だなんて言えない!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます