第3話「初接客」
ど、どうしよう……。なんで女装で接客なんてしないといけないの?
「いやー、なかなかお客さん来ないねー」
「この状況で来てもらうと、ものすごく困るんですけど」
向き合うわけじゃなく、お互い正面の入り口を向いて話す。
「うーん、そうかなぁ? とっても可愛いよ、千屋君。じゃなくて、千屋ちゃん」
きつい。男子なのに「ちゃん」だなんて……。だけど、お客さんに女装しているなんてばれるわけにはいかない。何とか我慢しないと……。
「にしても、本当に来ないですね。お客さん」
「そうだねー。今日は一段と来ないよ。まぁ、いつも来る時は、大人が数人なんだけどね」
「良かったですよ。もしこんな格好しているのが知り合いにでもばれたら僕はもう生きていける気がしません」
と、ここで店の入り口が開く。おお、初めのお客さんだ。こんな格好でもバイトはバイト。緊張するけど、落ち着いて、落ち着いて。
「いらっしゃいませ」
広永さんの挨拶。よし、僕もあんな風に挨拶を。
「いやー、ここが千屋の働いているハンバーガー屋か」
「いらっしゃい――(ササッ)」
「(ガシッ!)いらっしゃいませ(逃げんなよ、千屋ちゃん)」
こ、ここ、怖いよ広永さん! そしてその口調何!
無理やり引っ張られてお客様の前に立たされる。
逃げたい、逃げたいですよ。だってこの人僕の知り合いなんですよ!
「い、い、い……」
くそ、「いらっしゃいませ」が言えない。くっ……。なんでこんな格好で接客なんか……。
と、とりあえずここは絶対僕とばれないようにしよう。そ、そうだ、最近のアイドルみたいに思い切り可愛く、はじけるように挨拶を……。
「い、い――」
「い?」
「いらっしゃいませお客様! 店内でお召し上がりですか?(キラッ)」
必殺、横ピース! &フレッシュスマイル!
「…………」
「…………」
「……ありがとうございます!(ダバダバダバ)」
なにが! なにが「ありがとうございます!」なの! なんで鼻血を吹いているの!
「(ポンッ)……ナイス接客だよ、千屋ちゃん!」
なにがだぁぁぁぁ!
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