Last phase-15
交錯する、二つの刃。
刀から煌めく私の刃と、ボディーガードの水銀製の刃。
この打ち合いによる閃光のぶつかり合いは、まさに拮抗していた。
僅かな刃こぼれをしているとはいえ、いまだに折れずにいる私の『時雨』は、改めて名刀なんだと思う。
最早何度切り合ったかわからないほどの斬撃の応酬。
次第に疲労によって集中力は削られ、呼吸を乱される。
ここまで戦えたのも、これまでの戦闘経験と私の『眼』によるものだろう。
でなければ、今頃は足元に転がる先に倒した機械と同じ骸をさらしていただろう。
「本当に、よく粘るな。この疲れない機械相手にここまで戦えたのは、私の指令のおかげか、はたまたここまで君をサポートしていたノアのおかげか」
耳障りな言葉が、鼓膜に響く。
いまだに冷や汗一つかくことなくその場に立つ岩國が、重々しく口を開いた。
「どちらでもかまわないが、真におまえを突き動かしたのが、ただの復讐心とは、死んだあの男はどう思うだろうか」
黙れ。
「そう言えば、あの男がなぜ、他の部隊員の殺害を受け入れたか、まだ話していなかったな。それは、あの男に指令を出した折りに、一つ約束をしてな」
黙れ。
私の想いも虚しく、重々しい雰囲気のまま、岩國は一呼吸おくと語り始めた。
「それは、『闇』の部隊員を皆殺しにする代わりに、自身の死後、娘の鬼道佐久弥と自身の部下の命の保証はしてほしい、というものだった。任務の後、あの男自身が処刑されることも想定内だったようだ。まあ、当然だな。『闇』の顛末を知る者を生かしておくわけにはいかん。情報漏洩を防ぐ意味で、あの男には消えてもらった。おまえ達の安全と引き換えにな」
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
「だが、おまえ自ら危険に飛び込んでは、あの男も報われんな。あの男の死は、無駄だった」
「黙れ――――――!」
怒号を上げて、刀を水平に薙ぐ。
首を的確に捉えるが、硬い水銀が両断を許さない。
「……っ」
歯を食いしばり、無理矢理にでも頭部を切り離さんと刃を走らせる。
刀を握る指に力が籠り、金属同士のぶつかり合いで火花が飛ぶ。
鋼鉄同士の鍔迫り合いはしかし、瞬間的に終了した。
一瞬、手ごたえが変わる。
手元が軽くなると同時に、刃が砕けた。
だが、ボディーガードの首も落下した。
落ちると同時に手にしたUSPを叩き込む。
9 mmパラベラム弾を叩き込むと、相当堅かった頭部を削るように穿っていき、全弾撃ち尽くす頃には機能を完全に停止していた。
残留した水銀が、室内の床を侵食するように広がっていく。
それを見下ろすと同時に、極大の疲労感が私を襲う。
だが、これでいい。
これで、厄介な連中は片付けた。
あとは、標的だけだ。
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