Last phase-16
最前線の防衛省前では、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
サブマシンガンや拳銃で銃撃と、ドスによる斬撃で攻撃する『八条会』。
迎え撃つ機動隊は、シールドによる防御と催涙弾を装填したグレネードランチャーなどで応戦する。
接戦、と言えば聞こえはいいが、実際はギリギリの戦いを『八条会』側はしていた。
ただでさえ時間稼ぎの戦だ。
それも一人も殺すことなく応戦するとなると、できる手段は限られてくる。
倒れていく、杯を交わした兄弟達。
これまでの抗争でもあったことだが、今回は自身の勝手で起こした戦いだ。
「……っ」
彼等の姿を見るたびに、仁助は胸を締め付けられる想いがする。
歯噛みしながらも、長ドスを振るう仁助。
機動隊員の防護服の間隙を狙うが、敵も動く上に心的動揺もあってか、狙い通りになかなかダメージを与えられない。
そんな状況でも仁助が倒した機動隊員の数は少なくなく、彼の過去の経験の賜物だろう。
だが、それでも全体的に見ると劣勢なのは『八条会』側だ。
いつ到着するかもわからない機動隊の応援が来てしまった場合、数で圧倒的に劣る『八条会』は撤退を余儀なくされるだろう。
だからこそ、彼等は劣勢でも耐えるしかなかった。
愛する妹が、戻ってくるまで。
「あ、兄貴! これ以上は前線がもちません!」
「馬鹿野郎! それでもやるんだ! 急げ!」
部下に激昂する仁助だが、もうもちそうにないのは瞭然だった。
その時、仁助の死角から黒い影が迫る。
「……!?」
反射的に長ドスで防御する。
金属音が鳴り響き、その黒い影の正体がはっきりしてくる。
黒い中折れ帽に、同色の外套。
その黒の奥に光る鋭い目付きに、仁助は見覚えがあった。
「……なんでてめえが出張ってくるんだ、『黒拳』?」
「……」
寡黙な空手家、風間重一郎。
かつて暗がりの倉庫街で仁助と死闘を繰り広げた人物が、そこにはいた。
「生憎と、今はおまえを相手にしてるほど暇じゃねえんだ。他をあたってくれねえか?」
「……」
「けっ、相変わらず無口な野郎だ」
無言で天地上下の構えをとる風間。
それに合わせるように、仁助も長ドスを下段に構える。
「! 敵の動きが鈍くなったぞ!」
「今だ! 畳みかけろ!」
機動隊から檄が飛び、一気に活気づく。
瞬間、轟音が響く。
それは、一発の弾丸だ。
7.62 mmの弾丸が、機動隊員の足を止める。
「……!? 狙撃だ!」
「どこからだ!?」
「探せ! 周囲警戒を怠るな!」
機動隊の足が止まり、周囲に視線を走らせる。
「……てめえの仕業か?」
「……」
仁助の問いに答えない風間。
だが、これは風間にも想定外の事だった。
何が起こっているのかわからないが、これはある意味好機だ。
「……まあいい。あとでてめえの、骸に聞くぜ!」
「……!」
仁助は己の得物を振り上げ、風間も目の前の敵に応戦せんと一歩踏み出す。
混迷を極めた戦いが、幕を開けた。
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