Last phase-10

 扉を蹴破った先は、簡素な部屋だった。

 何か特別なものはなく、ただのデスクとパソコン、そして来客用のソファとテーブルがあるだけだ。

 その部屋の主らしい男もまた、そのデスクで静かに私を見据えていた。

 厳めしい相貌の、壮年の男。

 短く刈り込まれた短髪のこの男は、私を睨みつけるようにじっと座っている。

 岩國源一郎。

 現内閣防衛相長官にして、父親の元上官であり、仇。

 その男の両脇を守るように佇む、男が二人。

 屈強そうな黒服の二人は、一切の表情を崩さずに仁王立ちしている。

 目元にしたモノアイ型のバイザーが、彼等の無表情も相まって、一層不気味に感じる。

「……なるほど、写真で見た通り、あの男の面影があるな。鬼道佐久弥」

「……!」

 重々しく低い声が、私の鼓膜を震わせる。

「何も驚くことはない。貴様の父親が私の部下だったことは、すでに知っているのだろう?」

 目の前の男から発せられた言葉から、確信した。

 この男が、元凶。

 父の、仇。

 そう思ったら、すでに体が動いていた。

 鞘から刀を抜き放ち、横一文字に一閃する。

 抜き放った刀はそのまま、最速で岩國の首を切り裂かんと突き進む。

 しかし、

「……!?」

 私の刀は、止められた。

 岩國のボディーガードらしき、黒服の男に。

 掌でがっしりと刀を掴み、彼の首まで届かなかった。

 そして、何よりも不気味だったのは、男の表情だ。

 素手で刀を掴んでいるにも関わらず、まったくの無表情。

 まるで何でもないように表情を変えずに、男は刀の切っ先を握りしめている。

「……っ!」

 らちが明かないと思い、懐からUSPを取り出し、至近距離でボディーガードに放つ。

 ほぼゼロ距離から撃った9 mmの弾丸は、そのまま男の頭部に吸い込まれる。

 そして、金属音が響く。

「……!?」

 予想外だった。

 頭に銃弾を撃ち込んで、避けるどころか微動だにしなかった男から、弾丸が弾かれるとは思いもよらなかった。

 なるほど、こいつもか。

「……『青海机械公司』を、覚えているか?」

 岩國が口を開く。

「あれは、我々のサイボーグ技術を盗み、今後我が国の脅威になる可能性を考えたがゆえに、おまえ達をあの御曹司の護衛に当たらせた。本当にただの暗殺者なら、特殊作戦群さえ必要ない。そんなものは警察や公安の仕事だ。おまえ達が動くことではない」

 淡々と話す男だが、私の思考は別のことに支配されていた。

 護衛に当たらせた? おまえ達が動く?

「ふむ、なんだ。まだわかっていなかったのか?」


「おまえ達を、あの桔梗院を介して利用していたのは、この私だ」


「……!」

 瞬間、頭が沸騰して、岩國に銃を向けた。

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