Last phase-8

 とある1区画から、私は換気口から脱出した。

 飛び降りた先は、防衛相執務室付近の廊下。

 リオリウムの床を疾駆して、目的地を目指す。

 その時、

「……ひっ!?」

 驚いたような悲鳴が、耳に届く。

 逃げ遅れたらしい一般職員だろうか、怯えたような目で私を見ている。

「な、なんでだ? ま、まだ、だって、さっき、ここに侵入したって……!?」

 狼狽している様子の男に、銃を向ける。

 京都で戦った女から奪ったままだった、USPだ。

 完全に姿を見られてしまったから、排除する。

 至極、当たり前のことだ。特に敵地では。

「……!? う、うわあああ!」

 ようやく状況を理解したらしい男は、背を向けて逃げようとする。

 私の構える銃の引き金に駆けた指に、力を籠める。

 が、

「――――っ!」

 急に、頭痛に襲われる。

 殴られたわけでもない、急に襲われた痛み。

 そして、脳裏を霞む、かつての光景。

 だが、この痛みに襲われている間に、男を逃がしてしまう。

「……」

 理解できない。

 自身の手を、何となく見る。

 なんだ、いつもの通りじゃないか。

 いつものように、無骨な機械骨格が、私の視界に映る。

 にもかかわらず、私の記憶から蘇った、あの記憶はなんだ。

『もう、人を傷つけないで』

 この言葉が、何度もリピートされる。

 やめろ。

 私の頭から、出ていけ!

「……」

 息を切らせて、壁に手をつく。

 顔を上げて、周囲を見ると、壁にかかった案内板を発見する。

『長官執務室』の、文字を。

「……見つ、けた」

 何とか言葉を吐き出し、息を整える。

 そして、再度武装を確認する。

 拳銃、USP。

 装弾数は16発。

 腰に携帯した三尺刀『時雨』。

 問題なく、抜き放てる。

 よし、行こう。

 これで、長年の真相がわかる。

 父の、鬼道正義の、死の真相を。

「……」

 心を落ち着け、扉の前に立つ。

 そして、思い切りドアを蹴破った。

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