Last phase-1

「……」

 重苦しい雰囲気が、『JSA』の事務所に流れる。

 普段、佐久弥のいない事務所は会話こそなくとも、少なくとも居心地の悪さを感じることはない。

 だが、今の事務所からは明らかにマイナスの雰囲気が流れ、第一声を発することさえも躊躇されてしまうことだろう。

 理由は単純だ。

 鬼道佐久弥の失踪。

 彼女が修学旅行に行った後、この事務所に来ることはなかったことが一番の原因だ。

 調べたところ、彼女は学校にさえ行っていないらしく、いよいよ消息がわからなくなっていた。

 一回自宅には帰って来たらしい痕跡が残ってはいたが、その痕跡が、知った一同を不安にさせるには十分だった。

 彼女の愛刀『時雨』が、なくなっていたのだ。

 昨夜のメイン装備がなくなっていたこと以外は、何も変化した様子がないことも、より一層不気味ではある。

 このこともあって現在、彼女の消息を追うために瀬見の『エルメス』を使って彼女を追跡しているのである。

 そして、ついにその時は訪れる。

「……はぁ~」

 ため息をつきながら、瀬見はソファにドカッと座る。

「何わかった、セミちゃん?」

「……」

 所長、桔梗院歌留多と風間重一郎が不安そうな面持ちで彼女に視線を送る。

「最悪。考えられる限り最悪の状態よ。今、画像見せる」

 そう言って、所長のパソコンにある画像を送信する。

 映し出されたのは、ある町の一区画の画像。

 一見して、どこかの施設の防犯カメラのワンシーンの切り抜きらしいことがわかる。

 その画像の、街路樹の茂みのすぐ近くに、彼女はいた。

 鬼道佐久弥、彼女だった。

「……佐久弥!」

 歌留多は思わず声を上げる。

 機械の身体である彼が思わず上げるほどに、彼女のその画像での存在は衝撃的だった。

「……」

 風間もその画像を見るが、冷静にその画像を凝視している。

「でも、わからないね。セミちゃん、この画像がどうして最悪何だい?」

「……問題なのは、画像そのものじゃなくて、写ってる場所」

「?」

 何日間も探し回った疲労感から、瀬見は気だるげに体をソファに預けて、ある単語を口にする。

「……防衛省庁」

「……!?」

 瞬間、室内の全員の目が見開く。

 防衛省。

 日本の防衛の要にして、彼ら『JSA』の依頼主。

 そんな様々な意味合いで重要な場所に、彼女が、しかもわかりにくいように潜む理由。

 その答えに、風間が口を開く。

「……岩國、か」

「……風間君がしゃべるなんて、珍しいね。でも、その通りなんだろうな。誰が情報を言ったのかわからないけど、これは確かに、非常にまずいね」

 所長が考える最悪のシナリオ。

 おそらく、佐久弥の目的は防衛相の岩國源一郎だ。

 しかも刀を携帯してまで動いているということは、最悪殺害も考えているのだろう。

 そして、『JSA』の依頼主は岩國本人。

 つまり、最悪の場合、『JSA』は佐久弥と対峙し、戦闘することになるかもしれないのだ。

「「「……」」」

 さらに重苦しい雰囲気が、事務所を包む。

 誰も一言を発することさえはばかられる雰囲気は、いまだ霧散する気配はなかった。

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