6th phase-final

 修学旅行最終日。

 今日は学校に戻るだけの移動日である。

 そんな、ある者にとっては名残惜しく、ある者にとっては面倒なだけの行事の終了の日に、嘉村が感じていたのは、それらと全く異なる感情だった。

 不安。

 なぜ彼がこんな感情を覚えているのかというと、隣に座る、一人の少女が」原因だ。

 鬼道佐久弥。

 昨夜、深夜にこっそりと宿に戻った彼女は、同室の上条ちひろにも何も言わずに床に就いた。

 それ以降、まるで機械人形のように、嘉村が何か話しかけても反応することすらなかった。

 今も、彼が話しかけても何も返すことさえない。

 まるで糸が切れた人形のように、彼の話に何も返すことはなかった。

 それでも、嘉村は話しかけ続けていた。

 周りのことなど気にせずに、たとえ何も返ってこなくても、彼は話しかけた。

 話しかけながら、昔の、彼女と出会ったときに戻ったような感覚に襲われていた。

 どんなに話しかけても、無視されて何も返ってくることはない、あの懐かしい状態。

 この二人の関係だけがリセットされ、時間が逆行したかのようにさえ感じる。

 だが、それでも、彼は話しかけた。

 いつか、必ず返事が返ってくると信じて。

 一方の彼女が、まるで違うことを考えていたとしても。



 そして、修学旅行から帰った翌日以降、鬼道佐久弥は姿を消した。

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