6th phase-13

 銃口は向けている。

 人を殺すことは、初めてではない。

 そのことに今更、罪悪感はない。

 にもかかわらず、私は彼女を、芦野を殺せないでいる。

「……何を、ためらってるんだ?」

 芦野が睨みながら問う。

「……」

 私は、答えられなかった。

 自分の感情が、行動の理由が、わからない。

 今までの自分とは違うような感覚。

 銃を持つ手が震えてしまうほどの何かが、私に去来している。

 何度も引き金にかかる指に力を込めようとするたびに、あいつの、嘉村との約束が脳裏にチラつく。

『もう、誰も傷つけないで』

 あの日、私があいつと交わした、たった一つの約束。

 もしこの女を殺してしまえば、あいつを、あいつとの約束を汚してしまうのではないか。

 そんな不安感だ。

「……けっ、まあいいけどな」

 芦野が舌打ちする。

「?」

「昼間に言ったろ? あたしに勝ったら、鬼道正義の依頼人について教えてやるって」

「……!」

 彼女の放った言葉に、私は目を見開く。

 昼間に会話していた時に言っていたこと。

 私が、求めていた真実。

「……教えて」

「おいおい、急に目の色が変わったな」

 銃を突きつけられているにもかかわらず、何でもないように軽口を叩く芦野。

 そして、咳ばらいを一つすると彼女は真面目な雰囲気で語り始めた。

「おまえの父親に指令を出したのは、現防衛相長官の岩國源一郎だ。当時、自衛隊統合幕僚長だったその男は、鬼道正義の上司だった。そして、自衛隊の特殊作戦群の異端部隊『闇』の統率。つまりは親玉だ。岩國の指令があれば、どんな任務もこなす。主に皆殺しだけどな。

 岩國は生粋の愛国者だ。この国を守るためならばどんな犠牲も厭わないだろうな。まあ、私も数回会っただけだから、詳しいことはわからないがな」

「……」

「おい、聞いてるのか?」

「……」

「おい!」

 声が、聞こえる。

 だが、そんなものはどうでもいい。

 それよりも、やらなければいけないことができた。

「おい、待て! どこに行くんだ!? おい!?」

 誰かの声が聞こえる。

 だが、問題ない。

 私には、関係ない。

 視界、良好。

 機構異常、なし。

――――最終任務、開始。

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