6th phase-12

 夜の竹林を、歩く。

 昨日も同じ時間に歩いた道は、前とは異なり幾分歩きやすい。

 気を引き締めつつもよ闇を進むと、目的の人物は竹林に佇んでいた。

 昨夜と同じ、竹林の奥。

 そこでこちらを見据えているのは、間違いなく、芦野だ。

 防弾チョッキに暗視ゴーグル。

 昨夜と同じ出で立ちで、手にしているのはHSPだろうか。

 すでに臨戦態勢なら、こちらも手は抜けない。

「Open the eye」

 先んじて、『眼』を起動する。

 事前にしていた『準備』も、頭の中で確認する。

 よし、問題ない。

「……よう、時間ぴったりだな」

 向こうから声をかけてくる。

 そんな軽口とは裏腹に、押し殺すような殺気がにじみ出ている。

「ずっと待ってるなんて、暇なのか?」

「そういう訳ではないが、他にやることもなくてな。昨日は狙撃しようと待ってたんだが、おまえに壊されちまったからな」

 そう言って、銃を構える彼女。

「もうおしゃべりは昼間に終わらせたしな。さっさと、終わらせてやる……!」

 彼女の言葉とともに、炸裂音が響く。

 9 mm弾が私に当たる前に、即座に回避する。

 そして、彼女がさらに照準を定める前に、私はポケットから仕込みを取り出した。

 それは、ただのスマホだ。

 ただ、ライト機能がすでについているだけ。

 その光を、彼女に向けただけだ。

「……! がぁっ!?」

 途端にゴーグル脱ぎ捨てて呻く芦野。

 作戦通りだ。

 暗視ゴーグルは微細な光を機械的に感知し、それを人間の視覚に拾えるように増幅させる装置だ。

 つまり、ライトなどの光源を当てると強烈な光を捉えてしまい、目を潰すほどの光が、使用者である芦野を襲うはずだ。

 実際、目の前にはゴーグルを投げ捨てても、目を押さえてまともに照準を合わせられない芦野がいる。

 ここだ。

 この隙に、一気に彼女に接近する。

「! させるか!」

 彼女も私の足音に気づいたのか、手にした銃を乱射する。

 だが、文字通りの目暗撃ちに加えて私の『眼』が、弾丸の軌道を全て捉えていたため、私に命中することなどなかった。

 芦野に近づいた私は、そのまま銃を掴んで乱射を止める。

 握力でスライドが動かなくなり、芦野がどれほど引き金を引こうが、轟音が響くどころか、銃弾が放たれることもない。

 だが、銃を掴んだことで私の位置がわかったのか、空いている片手で殴ってくる。

「……らあっ!」

 見えないながらもがむしゃらにパンチを繰り出す芦野。

 自衛隊で鍛えているのか、一撃一撃が重い。

 なんとか防御するが、長時間は持ちそうにないな。

 そう考えた私は、体を芦野の背中側に回転させ、四方投げの要領で投げる。

「……!?」

 急に視界が落下して混乱したのか、芦野の焦点が定まらない。

 この隙に銃を奪い、彼女の額に付きつける。

 この引き金を引けば、終わる。

 彼女の復讐が、人生が。

 それと同時に、私の脳裏を、あるヴィジョンが過ぎる。

 学校で言われた、あいつの言葉。


 そして、結局私は、引き金を引けなかったのだ。

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