6th phase-10

「おまえの父親は、自身の部隊に所属していたメンバー以外の『闇』に関わりのあった人間を殺害したんだ。その殺されたメンバーの中にいたのが、あたしの父親だ。まだ高校生だったあたしは、ちょうどその頃に父の訃報を聞かされてな。それ以降、あたしは何故父が死んだのかを追い求めることになった」

「……」

 混乱する頭をなんとか働かせて、芦野の話を黙って聞く。

「そして、自衛隊に入ったあたしが知ったのは、おまえの父親があたしの父を殺したってことだった。『闇』の他のメンバーについてもいずれ始末するが、おまえに目を付けたんだ」

「……なんで、私?」

「おまえなら始末しやすいと思ったからだ。まあ、おまえのその『眼』については予想外だったけどな」

 なるほど、ある意味予想通りだ。

 ただ、この女の行動を否定できないのは、もう一つ理由があった。

 こいつは、私と同じだ。

 父親の死の真相を求めて突き進む彼女は、まさに今の私そのものだ。

 それもあってか、私は目の前の女を否定する言葉が出てこない。

「まあ、当ては外れたけどな。だが、おまえの次は生き残った他の『闇』のメンバー。そして、最後に一人だ」

「一人?」

「ああ。おまえの父親に、メンバーの殺害を依頼した奴だ」

「……!?」

 私は自身の目が見開かれたのを感じた。

 依頼人。

 この存在を、私は失念していた。

 その分、彼女の言葉に対する衝撃は大きかった。

「なんだ、予想外だったのか? おまえの父親は『殺人機械』とまで言われた人物だ。そんな奴が、何の理由もなく殺しつくすわけがない。必ずそれを指示した奴がいるはずだ」

「……知ってるのか?」

「ん? なんだ、興味でもあるのか?」

「いいから、吐け!」

 思わず怒鳴る。

 周囲の客からの視線が集まるが、気にしている程の余裕はない。

 目の前の女は知っているかもしれないのだ。

 私が求めていた、真実の答えを。

「……」

 芦野はフラペチーノを一口飲むと、

「……ああ。知ってる」

 と、宣った。

「おまえの知りたいだろうこの依頼人について、あたしは知っている」

「……!」

 彼女の言葉に、心臓が一際強く鼓動する。

 汗さえ流れる感覚が私を襲い、生唾さえ飲んでしまう。

「……教えて」

「ん~……」

 何かを考えるようなしぐさをする芦野。

「まあ教えてもいいんだけどさ、いいのか?」

「……何が?」

「ずっと鳴ってる、それ」

「……?」

 そう言って、私の懐を指差す。

 そして、現実に引き戻された感覚を感じた。

 鳴っていたスマホの画面には、あいつの名前が表示されている。

「……もしもし?」

『あ、鬼道さん! どこにいるの!? 勝手にいなくならないでよ!?』

 慌てた様子のあいつの声が耳元に響く。

 ああ、そうだった。

 トイレに行っていたあいつを忘れていた。

「ご、ごめん」

『もう、迎えに行くから、場所を教えて』

 彼に今いる場所を教えると、電話は切れてしまった。

「……まあ、今日はここまでだ。最後に、話せてよかったよ」

 そう言って、芦野は去っていく。

 そして、去り際にこう言い残した。

「もし、依頼人について知りたいなら、今晩、昨日と同じ場所であたしと戦え。もし勝てたら、教えてやる」

 そして、姿を消した。

 ちゃっかり私のコーヒー代も支払って行ったところを見ると、意外と律儀な奴なのだろうか。

「……」

 彼女との会話を、反芻する。

 今晩。

 また、あの場所で。

 この言葉が、何度も思い返される。

 そして、決意する。

 必ず、勝つ。

 勝たなくては、ならない、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る