6th phase-11

「……なるほど、そういうことなのね」

 宿泊している部屋で、上条さんから呟かれたことはそれだった。

 私がこれを彼女に事の経緯を説明したのは、理由がある。

 この旅館を抜け出すために、彼女の協力を得ようと思ったのだ。

 先日抜け出したこともあって、この部屋は担任から注意されている。

 抜け出すのは至難の業だろうこの状況を打破するために、同じ部屋の彼女に頼もうと思ったわけだ。

 正直、この女にものを頼むのは嫌なのだが、先日の件もあって何か訳ありなのだろうことは理解していると思うし、何より、同室はこいつしかいないのだから。

当然だが、『JSA』に関することは話していない。

「……頼めるか?」

「え~、どうしようかな~☆」

 わざとらしく悩むしぐさをするこの女。

 だが、これは想定の範囲だ。

「この頼みを聞いてくれたら、またあんたと戦ってあげる」

 この内容なら、聞いてくれるはずだ。

 この戦闘狂には、この取引は悪くないはずだ。

「う~ん……☆」

 それでも悩んでる様子の彼女。

 なんだ、これ以上私が出せるものなんてないぞ。

「……じゃあさ、鬼道さんに答えてもらいたいことあるんだけどさ。答えてくれるんだったら、協力してあげる」

「? 聞きたいこと?」

 疑問符が頭に浮かぶ。

 こいつが、私に聞きたいこと?

 組織間関係以外のことだったら、まあいいのだが。

「……聞きたいことって?」

「聞きたいことはね、あんた達の関係☆」

「? あんた達?」

「そう!」


「鬼道さん、嘉村君と付き合ってるの?」


「……はあっ!?」

 思いもよらない彼女の言葉に、自身の耳を疑う。

 目の前の女から、まさか私とあいつの関係の話をしろと言われるとは、想像だにしていなかった。

「で、どうなの?」

 身を乗り出して話を促す上条さん。

 心なしか、目が僅かに細められ、彼女の本気度合いが伝わって、迫力さえ感じてしまう。

「……なんでそんなこと聞いてくるのかわからないけど、あいつと私は、そんな間柄じゃない」

「本当に?」

「ああ」

「そっか」

 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 だが、同時に妙な感覚が私を襲う。

 なんだ、この女の笑顔が、なぜか私を不安にさせる。

「で? これが私に聞きたかったこと?」

「そう!☆ ちゃんと答えてくれたから、先生の注意は引いておいてあげる☆」

 宣言してポーズを決める上条さん。

 なんとも鬱陶しいが、今は彼女を信用するしかない。

 さて、と。

 ちらりと時計を一瞥する。

 刻限は、もう間もなくだ。

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