6th phase-5

「……え?」

 目の前の女が言ったことが、わからない。

 理解が、追いつかない。

 全てを、奪われた?

 私の父、鬼道正義に?

「ま、待て! 一体何のことだ!?」

「とぼけるな! 積年の恨み!」

 芦野が壊れたライフルの銃床を振り上げ、私目掛けて振り下ろす。

「……!」

 咄嗟に身を捻って躱し、バックステップで距離を取る。

 強引に距離を離した彼女は、すぐさまライフルを投げ捨て、腰から素早く拳銃を抜き放つ。

「……ちっ!」

 舌打ちして彼女に近づく。

 障害物が意味をなさない距離で撃たれるのは致命的だ。

「……くそ! 放せ!」

 芦野が吠える。

 先程とは別種の鍔迫り合いだ。

 拮抗させながら、彼女の銃を一瞥する。

 銃の種類は、H&K社のHSP。

 自衛隊の特殊作戦群が使う銃か。ということは、こいつは自衛隊員か。

 それも、相当な手練れだ。

「この、さっさと、くたばれ……!」

 怨嗟を吐く芦野。

 筋力の差があるのか、僅かにこっちが押され気味になる。

 これは、まずい。

 彼女がフリーになれば、彼女の銃口がこちらに向く。

 この距離でのゼロ距離射撃は防ぎようがない。

「……!」

 呼吸を丹田に集中させ、軸を回転させる。

 芦野の力を受け流し、バランスを崩した彼女の腕を取る。

 そのまま四方投げで地面に叩きつけた。

 だが、

「舐めるな!」

 芦野は受け身を取って、その反動で私に蹴り返してきた。

「……ぶっ!?」

 顔を蹴られてそのまま宙を舞う。

 『眼』を起動させててもダメージを受けてしまったほどの鋭い蹴りは、依然戦ったサイボーグの男ほどではないにしろ、人を昏倒させるには十分な威力があった。

「……くそっ」

 悪態をついて、立ち上がる。

 しかし、状況は最悪だ。

「……形勢逆転だな」

 そう言って、芦野は銃を向ける。

 銃弾の被弾予想が『眼』に表示される。

 それを防ごうにも距離が遠すぎるし、躱そうにも身体能力が追い付かないだろう。

 絶体絶命。

 最悪な言葉が脳裏をかすめる。

「死ね!」

 瞬間、銃声が響く。

 だが、それは芦野の銃ではなかった。

 竹林の奥。

 月明かりが照らす、僅かな場所からマズルフラッシュが見えた。

「おいおい、一体どういう状況なんだよ、こいつは?」

 そう言って近づくのは、一人の少女だ。

 今日を含め、数々の点で腹の立つこの女が、今は救世主に見えることに一層歯噛みする。

 だが、そう言っていられないな。

「……上条、ちひろ」

「は~い、元気そうじゃん、鬼道さん☆」

 いつもの横ピースをして、上条ちひろは銃口を芦野に向けるのだった。

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