6th phase-6

「……上条? おまえ、あのアイドルの上条ちひろか?」

「あれ、あたしのこと知ってるの? もしかしてファン? やったー!☆」

 突然やってきて発砲したちひろは、驚いた様子の芦野の反応に喜びで飛び跳ねている。

 そんな状況でも、ベレッタの銃口を一切ブラさずに芦野に向けているのは、ある意味で彼女らしい。

「……どうして、ここがわかった?」

 ダメージから復帰して立ち上がりながら、私は訪ねる。

「え? やだな、つけてきた来たに決まってるじゃん!☆ こういうのはコツがあるんだよ☆ そうでもしないと、鬼道さんなら勘づいちゃうしね!☆」

 一々ポーズを決めながら答える上条さん。

 これは、目の前のファンへのサービスか、それとも私を煽っているのか。

「……さて、それで、おまえ誰?」

 気持ちが切り替わったのか、上条さんの雰囲気が変わる。

 ここからは『アイドルの上条ちひろ』ではなく、『八条会の上条ちひろ』として相対することにしたらしい。

 彼女の狂気を湛えた視線が芦野に向けられ、突如変わった上条さんの雰囲気に、芦野がさらに目を細める。

 深夜の竹林に殺伐とした雰囲気が漂うが、形勢は圧倒的にこちらが有利だ。

「……ちっ」

 芦野が舌打ちすると、こちらを睨み続けながら銃を下ろす。

「今回は見逃す。だが、次は殺す。必ず、殺す」

 そう言って、芦野は音もなく暗闇の中に消えていこうとする。

 しかし、その瞬間に銃声が轟く。

「おいおい、ここで退場ってのは虫が良すぎない?」

 銃を撃ったのは、上条さんだった。

「……上条さん、何で撃ったの?」

「え? だってさ、こんなわけのわからない女に付き纏われるなんて、ウザくない? ならさ、さっさと消えてもらった方がいいかなって思って☆」

 案の定、短絡的な回答が返ってきた。

「待って、そいつには聞きたいことが……!」

「そんなの、あたしの知ったことじゃないもーん☆」

 そして、再び鳴り響く炸裂音。

 マズルフラッシュとともに放たれたそれはしかし、標的の女に当たることはなかった。

 バク転の要領で弾丸を躱し、即座にHSPを撃ち返す。

 反射的に私と上条さんは地面に身を伏せ、弾丸を回避する。

 反撃しようと上条さんが銃を向ける。

 が、

「……ちぇっ、逃げちゃった」

 芦野の姿は、そこにはなかった。

『眼』では彼女を捉えられたが、上条さんのベレッタでは弾丸が届かないだろう。

「ま、いっか!☆ とりあえずは楽しめたし!☆」

「……」

 私は考える。 

 芦野が言った、あの言葉。

 父が、全てを奪った。

 この言葉が何度もリピートされ、頭の中を駆け巡る。

 父が、鬼道正義が恨まれることについての心当たりは、ないこともない。

 父が所属していたと言われる、『闇』と呼ばれる組織。

 自衛隊の中でもさらに特殊な組織で、人殺しの集団であることは、以前中国の殺し屋から聞いた。

 詳しいことはわからないが、それの関係だろうか。

「ねえ、そろそろ帰ろうよ☆ それとも、決着つける?」

 銃を片手に笑う上条さん。

 物騒極まりないから、やめてほしい。

「嫌だ。帰るのには賛成だけど」

「ちぇ~、つまんないの」

 そう言って、銃をしまってついてくる。

 ある意味、今回のルームメイトが彼女でよかったのかもしれない。

 でないと今頃大問題になっていただろう。

 さて、帰るか。

 問題ができてしまったが、今日のところは一先ずホテルに戻ることにした。


 そして、当然のことながら担任にホテルを抜け出したことがバレた私達は、真夜中にこってり絞られたのだった。

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