6th phase-1

 何となく、外を眺める。

 私、鬼道佐久弥はこうしたことがよくある。

 普段の学校ではとりわけ、これもいつものことだ。

 あいつの話を聞いているときもそうだし、最近絡んでくる回数が異様に増えたヤクザ娘を無視するときもそうだ。

 こうしていると、いろんなことが一瞬だけど忘れられる気がするのだ。

 最近のことだと、ヒーロー事件の打ち上げでテンションが振り切れてた所長のことや、それに悪乗りしだす瀬見さんのこととか。

 いや、訂正しよう。今でも忘れたくても忘れられない。

 思い出したくもないことを思い出して、頭を振る。

 そうだ。今は忘れよう。

 今は、とりわけこの3日間は特に、任務関係のことは忘れるに限る。

「どうしたの、鬼道さん?」

 正面に座るこいつ、嘉村真一が気を使ってか、声をかけてくる。

 基本的に一人の私に気を使ったのか、こいつは私と一緒に行動するチームを組もうと言い出してきたのだ。

 確かに一人で行く予定だったが、こいつだって他に友達とかいただろうに。

 本当、お人好しな奴だ。

「……いや、何でもない」

 ぶっきらぼうに言葉を返す。

「そう? もし酔ったとかなら、席代わるよ?」

 そう優し気に言ってのける。

 別に乗り物酔いしたってわけではないのだが。

 ……まあ、悪い気はしないのは確かだけど。

「……ありがとう」

 一応のお礼を言って、手元の冊子に目を通す。

 明らかに手作りのそれを流し読みし、今後の工程を頭に入れる。

 その冊子のタイトルは、こうだ。

『第56期生 修学旅行のしおり』

 その冊子の名の通り、私達は今、学校行事で京都へ向かっている途中なのだった。

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