Other phase 2-final

 翌日、ちひろは見知らぬ天井を見つめていた。

 搬送された病院内で緊急手術を受けた彼女は、大事になることなくベッドで眠っていた。

 最初に目が覚めて廃ビルから景色が変わったことに混乱していたところ、当時彼女に付き添っていた仁助からことの顛末を聞いた。

 彼曰く、ちひろが眠っている間に抗争はなかったことになったらしい。

 本来なら『二条会』を潰すまで徹底的に叩くところなのだが、鈴音本人から謝罪があったことと、『二条会』そのものにも大打撃があったことも相まって、『八条会』にとっての落とし前は十分だと判断したらしい。

 そして、目が覚めた彼女に対してみっちりと説教をした仁助は、罰としてアイドル活動の休止を彼女に告げたのだ。

 聞いた当初の彼女は大荒れだったが、体中傷だらけの人間をステージに立たせられないという理由から、ちひろはしぶしぶ納得したのだった。

「……」

 何もすることがなく、虚空を見つめるちひろ。

 今回の出来事を何となく思い返してみる。

 そして、出た答えは、

「……楽し、かったなあ」

 主に廃ビルでの記憶が勝ったからか、楽しいと一般的にはズレた言葉が思わず漏れる。

 彼女にとってはいつものことなのだが、アイドルとしてしか彼女を知らない者が見れば、理解されることは決してないだろう。

 そしてもう一つ、彼女は思うことがあった。

「……ズルい、なあ」

 これは、廃ビルよりも以前の出来事。

 嘉村真一と会話していた時に、彼が真っ先に気にしたのは、彼がケガをする元凶となった、鬼道佐久弥のことだった。

 このことが彼女にとっては、とても気に入らない。

 最初に出会ったのは自分なのに、そんな彼が見ているのは別の相手。

「……む~か~つ~く~!☆」

 何となくベッドで暴れてみるが、何の意味もなく、虚しいだけだった。

 しかし、まだ、終わってはいない。

 どうも二人は付き合っているわけではない。

 それならば、自分が入る要素はまだある。

「……負けないよ、佐久弥ちゃん☆」

 窓の外に目をやり、己の好敵手を想う。

 その顔は、ヤクザとしてでも、アイドルとしてでもない。

 一人の、年相応の少女の顔だった。

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