Other phase 2-21
廃ビルの前に、何台もの車が止まる。
黒塗りのベンツやボルボなどの外車が居並ぶその光景は、見ている者に異様な威圧感を与えることだろう。
その先頭には、若頭の仁助が操るメルセデスベンツ 300SLが停まる。
ガルウィングのドアを開けて、愛用の長ドスを携えた仁助は集まった『十傑衆』に号令をかける。
「すぐに周囲を索敵しろ。生きてる奴は『二条』の奴なら殺せ」
彼の号令を受けた彼らは、無言で一斉に蜘蛛の子を散らすように散開する。
元特殊部隊上がりの者もいるこの『十傑衆』は、仁助の命令は何よりも優先して動くよう訓練された者達だ。
どんな無理難題な任務であっても忠実に遂行することから、おそらく仁助が死ねと言えば死ぬことにためらいを覚えないだろう。
そんな彼らの存在を今回、仁助は隠匿した。
これは、警察署の田代にこう連絡したからだ。
『十傑衆』は来ていないと、公表しろ。
仁助は『二条会』の情報源が田代だと知っていたのだ。
いくら『二条会』の構成員であったも、『八条会』の縄張りをうろついていたら彼らの行動がバレてしまう。
そこで、『二条会』が仁助達の情報を得ようとしたら、どうするだろう。
答えは簡単だった。
共通の情報源を使えばいい。
もともと警察と癒着している『二条会』と『八条会』だ。そこからの推察は容易だった。
「あ、兄貴!」
部下の一人が仁助に駆け寄る。
「おう、お疲れ」
「はい! このビルの上階で、ちひろお嬢を見つけました。手傷を負ってるみたいで!」
「!? あいつは、ちひろは無事か!?」
「はい! 幸い、致命傷ではないみたいで、これから病院に連れていきます!」
「……そうか」
安堵の息を漏らす仁助は部下にさらに尋ねる。
「周辺におかしなことはなかったか?」
「はい、それが……」
「?」
言いよどむ部下に、仁助の顔が険しくなる。
「……お嬢のいたビルのとなりで、頭の潰れた、その、ヒーローの格好をした仏さんがありました」
「!? あのヒーローが!?」
これは、仁助にとっては予想外だった。
仁助の予想では、このヒーロー事件に乗じた『二条会』が、自分達と抗争を引き起こそうとしていた、という筋書きだった。
それだけに、部下からの報告は彼にとって衝撃的だった。
「はい! ビルの屋上から落ちたんだと思いやすが、背中に一発弾食らってまして、それで落ちたんじゃねえかと」
そう言って、部下は仁助にその弾丸を見せる。
「……これか?」
そして、仁助は部下からその弾丸を観察した。
それは、9 mm弾だった。
そして、彼は直観的に、それがちひろの愛銃の弾丸ではないかという予想が脳裏をかすめた。
だが、
「……まさか、な」
そうつぶやき、部下に弾丸を返す。
実際、その弾丸はちひろのものだった。
彼女が鈴音に対して放った、目暗撃ちの弾丸の内の1発だ。
それが軌道を変えることなく突き進み、対面のビルへと放物線を描いて到達する。
そんな時、対面のビルで鬼道佐久弥の首を絞めていた三鷹に、偶然命中したのだ。
ちひろは意図せず、意中の相手の仇を取ることになり、自身のライバルの命を救ったことになるのだ。
しかし、そんな偶然を、仁助が知る由もない。
仮にそれを理解しても、彼は鼻で笑っただろう。
「……周囲に『二条』の連中がいなけりゃ、撤収するぞ。あの田代だって、これ以上黙ってるのは無理があるだろう」
「お、押忍!」
部下が駆けていくのを見送ると、仁助は煙草を咥え、火をつける。
紫煙を吐き出しながら、彼は今回の件が終わったことをしみじみと感じていた。
「……まあ、後始末は残ってるがな」
苦笑いしながら、彼はこの後のことを考える。
とはいえ、最初にやることは決まっていた。
最愛の妹への、説教だ、と。
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