Other phase 2-20
「……っ!」
ちひろの脇腹に、弾丸が撃ち込まれる。
致命傷にはかろうじてならなかったが、脂汗を浮かべて膝をつく程度のダメージは入っている。
「はあ、はあ、調子に、乗るなよ、ガキが……!」
息を切らせて、鈴音は手にした拳銃を向ける。
それは、デリンジャーと呼ばれる単発式の拳銃だった。
スカートの下に隠し持っていた念のための暗器をまさか使用することになるとは、鈴音本人も思ってはいなかった。
「……ちっ、くそが……っ!」
ちひろも何とか立ち上がろうとするが、激しい痛みが傷口から走り、歯を食いしばっても立ち上がれない。
「……手間、取らせてくれたな……!」
鈴音もデリンジャーに弾丸を新たに装填する。
「……!」
ちひろも鈴音が近づいてきたことに気が付き、ベレッタを向ける。
だが、満身創痍の少女が銃口を向けても、銃身がぶれ、おそらく正確には当たらないだろう。
「……言い残すことはあるか、ちひろ?」
慈悲のつもりか、デリンジャーをちひろの眉間に向けて鈴音は言う。
「……」
ちひろは若干俯き気味で顔が見えないが、おそらく悔しさで表情を歪めているのだろう。
そう思うだけで、鈴音の口は三日月のように歪む。
だが、その慢心が、彼女の命運を分けた。
「……答えは、こうだよ!」
ちひろは震える手で、拳銃を乱射する。
目暗撃ちだが、その弾丸は真っ直ぐに飛んでいき、鈴音に迫る。
「……!?」
わずかに躱すが、弾丸が鈴音の腕と脇腹を抉る。
そして、彼女のトレードマークとも言えるサイドテールを貫き、落とした。
あと数センチずれていれば、彼女は自身の血をまき散らしていたことだろう。
「……ちっ、上手くは、いかない、な」
弾を撃ち尽くしたちひろは、ニヤリと笑うとそのまま意識を失った。
一方の鈴音は、痛みと屈辱ではらわたが煮えくり返る思いだった。
何とか手放さなかったデリンジャーを、倒れた少女に向ける。
その時だった。
「あ、姉御! 大丈夫ですか!?」
ビルにいた生き残りの部下が、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「あ、ああ。私は無事だよ。すぐに、こいつを……」
「姉御、それどころじゃありません! こっちに、『八条会』の連中が来てます!」
「!? 来たか」
一瞬驚いた鈴音だが、これも想定の範囲だった。
かなりの痛手になってしまったが、彼らを抑えるために上条ちひろの誘拐を考えていたのだ。
「なら、すぐにこの女を連れていくぞ」
「……いえ、もう遅いみたいです」
「?」
「もう、『十傑衆』が来てるみたいです」
「……はあっ!? 情報では集まってないはずだろう!?」
部下の胸倉を掴んで聞き返すが、部下の反応はただ青ざめるだけだった。
「……」
「あ、姉御……?」
無言の鈴音に、焦る部下。
もし情報が本当なら、ここにいては殺されてしまう。
特殊部隊上がりの噂もある『十傑衆』は、凄腕の狙撃手もいるらしい。
しかもこちらは、予想外の大打撃により壊滅寸前。
戦ったら、死ぬ。
「……撤退だ」
悔しそうに、呟く。
彼女の悲願だった戦争は、彼女の敗北という苦い結果で、幕を下ろしたのだった。
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