Other phase 2-19
先に動いたのは、鈴音だった。
轟音とともに大量の弾丸をまき散らしながら、トンプソンの引き金を引く。
「……っ!」
ちひろは物陰に即座に隠れ、弾丸の雨をやり過ごす。
アメリカン・マフィア御用達で『シカゴ・タイプライター』の二つ名で呼ばれるこの銃は、朽ちかけた廊下や壁を抉っていく。
「……このままじゃ、まずいかな」
そう独り言ちると、弾丸の雨が止んだ一瞬の隙をついて、階上へと駆け上がる。
「待て!」
逃げるちひろを、鈴音は追う。
たまに目暗撃ちをしながらちひろは階段を上り、とある一室に逃げ込んだ。
そこはビルの屋上の一階下の部屋。
となりのビルの屋上が僅かに見えるこの部屋に逃げ込んだのは偶然だった。
屋上まで逃げなかったのは、そこまで逃げてしまうと遮蔽物がなく、短機関銃相手には不利にしかならないと考えたからだ。
とはいえ、この部屋にも隠れられるほどのものはない。
元は倉庫だったのだろうか、いろんなものが散乱してはいるが、遮蔽物にするには強度が足りなさそうだ。
「……う~ん」
普段は使わない脳をフル回転させ、ちひろは考える。
そしてふと、視界の隅であるものに目を付けた。
その一方で、鈴音は階段を駆け上がる。
怒りと焦りで目を血走らせ、トンプソンを構えながらちひろを探す。
そして、ちひろが逃げ込んだ部屋にたどり着く。
月光の差し込む室内で、彼女は座り込んで銃を構えるちひろを確認する。
「……待ち伏せのつもりか?」
ちひろの状態を訝しむが、待っていられる余裕も彼女にはなかった。
手にしたサブマシンガンを構え、ちひろの前に躍り出た。
「くたばれー!」
轟音を轟かせ、室内が弾丸で蹂躙される。
煙幕のように部屋が見通せなくなるほどに、砂埃が充満する。
「……やった、か?」
警戒しながらも、ゆっくりと足を踏み入れる鈴音。
瞬間、発砲音が響く。
「……!?」
鈴音は思わず身を躱すが、手にしたトンプソンは銃身を歪め、破損する。
「……ちっ、早かったか」
部屋の隅にいたちひろが、銃を構えて舌打ちする。
先程鈴音が見ていた場所には姿見鏡がガラスを散乱させて転がっている。
これは、ちひろの作戦だった。
鏡で自身の姿を映し、鏡に映る像をちひろ本人だと錯覚させたのだ。
光の反射は月明かりを逆光にすることで防ぐ。
視界の悪い室内だからこそできるだろうと考えた、彼女の策だった。
「……まあ、得物は壊せたからいっか☆」
ちひろは愉快そうに、手にした長ドスを舐める。
ここで決める。
獲物を前にした猛獣の如く、殺気を放つちひろ。
慢心して鈴音の焦る姿を見ようと、彼女の前に歩み出る。
瞬間、再び発砲音がこだました。
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