Other phase 2-18

 今の彼女、上条ちひろを表すとしたら、この一言に尽きる。

 一騎当千。

 その言葉が似合うくらい、圧倒的だった。

「……て、てめえ!」

「死にさらせ!」

 手にドスや銃を手にした男達が吠えるが、ちひろはそれものともせずに突撃する。

 反射的にドスを振り上げた男の懐に潜り込み、至近距離で銃の引き金を引く。

 血と脳漿をまき散らしながら倒れる仲間を茫然と見ていた男を、長ドスを薙いで首を切り裂く。

 一切の容赦なく敵を蹂躙していくちひろの姿は、まさに死神のようであった。

「……あはは☆」

 ちひろは笑う。

 戦闘に酔っているのか、天性の勘だけで相手の攻撃を読み、標的を撃ち抜き、切り裂く。

 獣のような感性をもつ彼女特有の戦法は、目の前の男達を恐怖させるには十分だった。

「……ひ、ひぃ!?」

 集まっていた『二条会』の構成員達は思う。

 話が違う、と。

 当初聞かされていたのは、調子に乗って突っ込んできた少女を挟み撃ちで捉える予定だったのだ。

 それがどうだ。

 今や別動隊は何者かに強襲され、自分達は圧倒的な劣勢に立たされている。

 しかも、捉えるはずの少女は、天性の戦闘狂だった。

 こんなの、聞いていない。

「や、やべぇよ……」

「に、逃げろ!」

 完全に戦意を喪失してしまった者達が、後方に逃走を図る。

 だが、

「敵前逃亡か。それが何を意味するか、分かっているね?」

 それは、後に響く轟音によって止められることとなった。

 体中に穴をあけて倒れ伏す男を踏みつけ、神藏鈴音は青筋を立ててちひろを睨む。

「……上条、ちひろ」

「あ、鈴音さん!☆ ヤッホー!☆」

 返り血で体を汚したちひろは、怒り心頭の鈴音に手を振り返す。

「……どうやってここがわかったとか、一体どんな手を使ったのか、なんてどうでもいい。私は今、おまえを血祭りに上げたくてしかたない」

「あはは、鈴音さん、こわーい!☆ でも、ちひろも言うね☆」

 彼女はそう言うと、鈴音を殺気を込めた目で睨みつけた。

「おどれ、ようもあたしのダチを傷つけ、兄貴に喧嘩売ってくれたな。この落とし前、きっちりつけてもらうから、覚悟しろや」

 普段の彼女と違い、ドスのきいた低い声。

 殺意剥き出しのその視線は、流石の鈴音でさえ一瞬冷や汗をかくほどだった。

 鈴音がそれでも引かなかったのは、ここで引いては『二条会』の面子に関わるという信念が、彼女を踏みとどまらせたからだ。

「「……」」

 両者は睨み合い、銃口を向け合う。

 鈴音の装備はトンプソンM1短機関銃。

 ちひろのベレッタM92自動式け拳銃と比べて、圧倒的に火力で勝る。

 だが、なぜだろうか。

 彼女には、ちひろに勝てるビジョンが見えない。

「ビビってんじゃねえよ、ヤクザのボスがよ?」

「……っ!!」

 ちひろの煽りに耐えきれず、鈴音は引き金を引いた。

 決着の時が、次第に近づいていた。

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