Other phase 2-17

 夜風が生暖かい中を悠然と歩き、上条ちひろは神藏鈴音のいる廃ビルにやってきた。

 手には愛用の長ドスとベレッタ。

 それらを手にして、罠があっても関係ないとばかりに、ちひろはビル内に入っていった。

 この場所の情報は、主に仁助からだった。

 学校で宣戦布告を受けた彼女は、まず仁助に連絡を入れた。

 そこで知ったことだったが、彼はすでに根回しを終了させていたのだ。

 その一つが、警察の田代警部補に、『二条会』へ偽の情報を流すように仕向けることだった。

 その見返りに、『二条会』の組員の逮捕の際、手柄を全て田代に渡す。

 この裏取引を一早く成立させ、『二条会』の状況を仁助が掌握する。

 自分達が事態を手中に収めていると思い込んでいる彼らが、実は掌の上で踊らされている。

 そんな滑稽な事実を知ったちひろは、仁助にさらに鈴音の襲撃を提案した。

 ちひろはただ自分が突撃するだけのつもりだったのだが、仁助はこれを機に鈴音の別動隊を同時に襲撃しようと付け加えたのだ。

 その計画は功を奏し、ちひろを挟み撃ちにしようとした部隊は『八条会』から襲撃を受け、彼女が背後から襲われる心配はなくなったのだ。

 あとは、行くのみ。

「……さて、行くか」

 舌なめずりをして、長ドスを鞘から引き抜く。

 鞘を投げ捨ててビル内を進む。

 その瞬間、入り口に隠れていた男がちひろに銃を向ける。

 だが、その引き金が引かれることはなかった。

 引き金にかかった指に力が入る前に、ちひろは長ドスを振り下ろし、男の腕を両断した。

「……あ?」

 何が起こったか理解できない男の眉間に、ちひろは自身の銃口を突き付けて、頭を吹き飛ばす。

 その銃声を合図に、隠れていた男達が一斉に姿を現す。

 各々が手に武器を手にしており、仲間をやられたこともあって全員が殺気を放っていた。

――――ああ、楽しい。

 ちひろは、僅かに高揚していた。

 ここまでの闘争は、彼女の人生の中でもそうはない。

 目の前に立ちはだかる男達を、どうやって料理してやろうか。

 殺伐とした思考が、彼女の脳を支配する。

 ここにいる女は、普段のアイドルや学生としての上条ちひろではない。

 極道という裏社会を歩く、一人の任侠者の上条ちひろだ。

「……お初に、お目にかかります」

 上条ちひろは、男達に首を垂れる。

 足を四股に、右手を突き出す。

「私、『八条会』に籍を置き、表ではアイドルをしております、姓は上条、名はちひろ、と申します」

 極道において、それは『仁義を切る』、という独特の挨拶であった。

 一般には浸透していないそれを述べた彼女は、口を歪めて、最後にいつもの横ピースを決めた。

「これからあんた達を地獄に送るから、よろしくね☆」

 その笑みは、男達からはこう見えた。

 死神が、嗤った。

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