Other phase 2-16

「姉御! ターゲットが来ました!」

 目的地の廃ビルにやってきた鈴音を出迎えたのは、屈強な男の野太い声だった。

『二条会』の戦力を分散させ、このビルにいるのはその中でも選りすぐりの戦力だ。

 各地に配置した戦力で、同時に『八条会』の関わる事務所や店を強襲する。

 そして、いろんな伝手を使ってこの場所を突き止め、向かってくるであろう上条ちひろを人質に取る。

 妹想いのあの仁助の動きを封じ、一気に壊滅させる。

 完璧な計画だった。

『八条会』の動向は、情報提供者である警察にいる田代から十分に聞いている。

 最大戦力の『十傑衆』はまだそろっていないということも。

「はは、いい調子だ。いい具合に餌に食いついてくれた。いいな、絶対に逃がすなよ」

 鈴音は口元を歪めて獲物である上条ちひろを待ちわびる。

 予定では、このビルにやってくる予定の上条ちひろを、隠れている別動隊とともに挟み撃ちにする。

 一騎当千の彼女であっても、不意を突かれれば体勢を立て直す前に確保できる。

 完璧な、作戦だ。

 そう思っていた矢先だった。

「姉御! 大事です!」

 部下の一人が慌てて、彼女へ報告する。

 慌てた様子の部下の態度から、ただ事ではなさそうだった。

「何事だ!?」

 嫌な予想が脳裏をかすめる。

 そして、部下の報告から、彼女の予想は的中することになる。

「しゅ、襲撃です! 各地に散らばってる部隊が、『八条会』の連中から襲撃を受けています!」

「……は?」

 鈴音は、耳を疑った。

 あり得ない。

 襲撃を受けた、という事実もさることながら、自分が配置した部隊を襲った者が『八条会』ということが、彼女には信じられなかった。

 何が、起きている?

 彼女が思考を巡らそうとするが、さらなる事態が彼女を襲った。

「あ、姉御! 奴が、奴が来ました!」

 別の部下が狼狽した声を上げる。

「か、上条、上条ちひろです! もうこのビルの一階で、うちの組員とやり合ってます!」

「!? すぐに別動隊に連絡しろ! 挟み撃ちだ!」

「ダメです! 連絡が付きません!」

 連絡役から無慈悲な報告が響く。

 何が、何が、どうなってるんだ?

 余裕であったはずの陣営が、いつの間にか瓦解している。

 この事実を受け入れられずにいるが、現時点でのこの状況を何とかしなければならない。

 でなければ、自分が死ぬ。

「応戦しろ! 私も出る!」

 切羽詰まった状況で、彼女は自身の愛銃のトンプソンM1短機関銃を手に走り出した。

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