Other phase 2-15
「やあ、お目覚めかな、ヒーローさん」
三鷹が目を覚ますと、目の前には神藏鈴音が彼を覗き込んでいた。
古びたビルの一角で、錆びれたベッドに横になっていた三鷹は彼女を睨みつけながら口を開く。
「……ああ。最悪の目覚めだよ」
「おいおい、君の暗躍をサポートしているスポンサーに対して、その言い方はないんじゃないかな? 今の君はまともな病院には通えないんだよ? そんな君に、寝床の用意や治療を行った私を、そんな邪険にしてほしくはないなぁ」
やれやれと首を振る鈴音に、三鷹は噛みつくように言い返す。
「何がサポートだ! こんな朽ちたビルにベッド! それに来るのはおまえの部下と闇医者じゃないか! それに、そもそも寝床とかの対価は、おまえの組の裏切り者とやらの始末だ! 文句も言いたくなるさ!」
「いいじゃないか。今更我々のような裏社会の人間のことなんか、道端のポイ捨てされたごみと大差ないと思っているんだろう? なら、そのごみ処理を頼んだところで、何が悪いというんだい?」
「……」
三鷹は黙った。
確かに、彼女の言う通りだった。
目の前の女を含め、裏社会を生きている人間など、この世界の癌とさえ思っている。
だが、その事実を極道者の彼女に言われたことが、何より屈辱的だった。
「……一つ聞きたい」
「? 何かな?」
「どうして、古川とかいう男はおまえ達の手で始末したんだ? おまえの言う通り、追い詰めたら奴の根城に戻ることは想定していたが、わざわざ自分達の手で殺すよりは、足が付きにくいだろう?」
「ああ、なんだ。そんなことか」
鈴音はクックッと嗤いながら答える。
「本当は、奴の死を『八条会』壊滅の理由にするつもりだったんだ。古川の店は我々『二条会』のシマと『八条会』のシマの境界のある。その境界を犯し、何より元とはいえ『二条会』の構成員を殺した。これは戦争をする名分にはもってこいだった。これだけでは正直、実際に事を構えるには足りないと悩んでいたが、まさかおまえの去った後に上条ちひろが現れるとはね。これはいい誤算だった。彼女のおかげで、実際に戦争する大義名分ができたわけだ! 本当に、彼女には感謝しないとな!」
まるで待ちわびた恋人に出会うかのように、感極まったように熱弁する鈴音。
三鷹としては、彼女の都合などどうでもいい。
ただ、彼女の起こす戦争のせいで、一般人に被害が出ないかどうかだけが気がかりだった。
「……言っておくが、一般人に被害が出ないようにな」
「わかっているさ。おまえの上司からもそう言われたよ。その約束は守るさ」
「……そうか」
そう言うと、三鷹はベッドから起き上がり、鈴音をすり抜けて部屋を出る。
「……行くのか?」
「ああ」
端的な返しだったが、お互いに思った。
もう、二度と会うことはない。
何となくだが、そう思った。
特に悲しいとは感じなかった。
そんな間柄ではなかったから、というのもあるが、いつか来るであろう日が来た、という意味合いが大きかった。
「……じゃあな」
「ああ。またな」
互いを利用し合った二人は、まるで長い時を共に過ごした友人のような挨拶をして、別れた。
再会の時など訪れないだろうことを思いながら、それぞれの戦場へ向けて歩き出したのだった。
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