Other phase 2-3
「おや、ようやく来たな。客人を待たせるなよ仁助」
「そう言うな。来ると事前に聞かされてたならともかく、あんたは招かざる珍客だ。これくらいは当然だろう」
鈴音の対面の席に腰かける仁助は、煙草に火をつけ、一服する。
「それで、朝早くから何の用だ? 二条の人間が、気安く来られるような場所じゃないぞ、うちは?」
眉間にしわを寄せ、睨みつけるように鈴音に視線を送る仁助。
「ああ、実は、折り入って確認しておきたいことがあってな」
「確認?」
傍から聞いていたちひろが疑問符を浮かべる。
「そうだ。最近巷で騒ぎになってる『ヒーロー事件』についてだ」
瞬間、緩んでいた空気が一気に締まった。
『ヒーロー事件』。
戦隊ものの仮面をかぶった正体不明の人物が、世の裏表問わず、犯罪者と報道された人物を粛正と称して殺害している、いわゆる連続殺人事件だ。
警察も捜査しているが、いまだに犯人の目途も立っていない状況だった。
加えて、極道の仁助達は部下を数人、すでに犯人に殺されたこともあり、この『ヒーロー事件』については『二条会』と『八条会』ともに敏感になっていた。
「……何か掴んだのか?」」
「いや、何にも。だが、こうしていても埒が明かないのは事実だ。このままでは我々の面子が潰れる。ただでさえ最近、我々はお国から嫌われているんだ。これ以上の求心力の低下は好ましくない。そこで、これだ」
そうして、彼女は自身のタブレット端末を見せる。
「……これって」
「……懸賞金か」
「そうだ。情報提供者だけでも安い賞金を提供するってことにすれば、少なくとも何もない現状を打開できるかもしれないだろう? もちろん、自分達の組員が奴を仕留めたとしても金を出すこと前提だがな」
「……財源は?」
「すでに本部の『一条組』に要請した。ただし、この渦中にいるそのヒーローの首を、必ず持ってくるように、というお言葉は頂戴したがな」
「……」
仁助は考える。
目の前の女が言ってることが事実だとするならば、本部は本気だ。
彼の経験上、ここまでの許可が下りたのは過去、この日本へ入ってきた中国系のマフィアと敵対した時以来のことだ。
それほどまでの脅威を、今回の一件から本部は感じたのか?
「……胡散臭いな」
「まあ、そちらがどう思おうが知ったことではないけどね。隣人の好みで教えてやったんだから、せいぜい有効活用してくれ」
そう言うと、鈴音は席を立つ。
「それじゃ、私は失礼するよ。チャオ」
胡散臭い投げキッスとともに去っていく鈴音と、ますます頭を抱える仁助。
「はぁ……」
「朝から災難だったね、仁兄」
ちひろが労いの言葉をかけるが、仁助の手が頭から離れることはなかった。
「……ややこしいことになったな。ったく」
「……」
深刻な表情をする仁助に、ちひろが声をかけようとした。
「……あのさ」
「おい、ちひろ。時間大丈夫か?」
仁助に声を遮られ、スマホで時間を確認する。
時計の針は、急いで登校しないと間に合わない時間を指示していた。
「やっば! じゃあ仁兄、行ってくるね☆」
言うが早いか、ちひろはバネに弾かれたように家を飛び出した。
そして、急ぎながらも思う。
何か、仁助の役に立てられることはないだろうか、と。
「……鬼道さんなら、何か知ってるかな?」
単なる直観だったが、彼女がこの手の話をできるのは、クラスメイトの鬼道佐久弥だけだ。
そうして、彼女はさらに足早に学校へ向かうのだった。
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