Other phase 2-2
「~♪」
朝の清々しい光を浴びて、上条ちひろは目を覚ました。
最近の彼女は仕事も忙しいが、そんなことは苦にならなかった。
夏休み期間中に出演したイベントでの苦労など、今の彼女にとっては些細なことだった。
ちひろはすっきりとした気分のまま、スマホのアラームを切る。
スマホのトップ画面に映る画像を見て、さらに笑みがこぼれるちひろ。
それは、夏休みにプールに遊びに行った時のものだった。
たった一枚だけだが撮影できた、記念の一枚。
横並びに自分、クラスメイトの嘉村真一と鬼道佐久弥。
アイドル業や極道でもある彼女が経歴を気にせずに話せる彼らの存在は、彼女にとってはありがたかった。
「……」
ちひろは何となく、画像を拡大する。
拡大された画像には、自分と嘉村の二人だけが映っていた。
「……ムフフ~☆」
満足げに笑う彼女は、スマホを閉じ、身支度を整えた。
今日も学校。終わったら次の撮影の打合せ。
予定を思い返しながら、制服に着替える。
それを終えた彼女は、スキップでもしそうな勢いで、リビングに向かう。
「おはよ~!☆」
元気よく挨拶するちひろ。
だが、リビングにいたのは彼女の思い描いていた人物以外の者もいた。
「おや、おはよう。朝が早いんだな、君は」
「……」
「そう嫌そうな顔をするな。一日の運気が逃げてしまうぞ?」
そう言って来客用ソファでコーヒーを口に運ぶ人物は、ちひろより少し年上くらいの女性だった。
腰まで届くサイドテールにゴシック調の服。
落ち着きのある女性の風格漂う銀縁眼鏡の彼女は、ちひろの兄である上条仁助の知り合いである。
名前は、神藏鈴音。
暴力団『一条組』の直系組織『二条会』の女組長だ。
「……朝から血生臭い女の顔なんて見たら、運気が逃げるどころか、不運が寄ってきちゃうと」
「はて? 今日はあの日ではないが?」
「そういうことじゃねえよ! てめえが来ると碌なことにならないんだよ!」
朝の素晴らしい気分を台無しにされたちひろは、素知らぬ顔をする鈴音を怒鳴りつけた。
実際、鈴音の手腕は確実の一言に尽きる。
が、手段を選ばないことで有名だった。
彼女の組織『二条会』が中国マフィアと抗争した際、その残党を徹底的に始末するために縄張りが近い『八条会』を巻き込み、仁助の部下が数名の被害を被ったことは記憶に新しい。
そんなこともあり、ちひろは自身の都合のために容赦なく他人を巻き込み、犠牲にする目の前の女が嫌いだった。
「あの時の落とし前、まだついてないんだけど?」
「おや、あのマフィアの件を言ってるなら今更だろう。そもそも、連中を放っておけば『八条会』の方にももっと損害が出ていたぞ。ほぼネットのちんけな上がりしか上納できない組織が、あれ以上の被害が出ていたら悲惨だったぞ?」
「……あたし、あんた嫌いだわ」
「そうか、それは残念だ」
そう言ってまた一口、コーヒーを口にする鈴音。
ちひろの沸点が上昇していき、いつ噴火してもおかしくない事態になっていった。
その時だ。
「……朝から騒々しいぞ、おまえら」
ちひろの兄の、上条仁助が眉間にしわを寄せながら部屋に入ってきたのは。
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