Other phase 2-4
結論から言うと、ちひろは何の成果も得られなかった。
正確に言うと、鬼道佐久弥が何も知らないらしい、ということがわかった。
とはいえ、佐久弥が裏社会に通じていることはちひろも知っているため、そう簡単に、しかもあんな公衆の面前で言うことはないだろうという考えは働いていた。
それもあってか、ちひろの落胆は少なかったが、得るものもなかったため、諦めて帰ることにした。
そして、そのまま帰路につく。
アイドル業も今日はなく、翌日以降は大事な収録が続くため、今日くらいはゆっくり休みたいという思いがあった。
「ただいま~☆」
ちひろが自身の帰宅を知らせるが、誰からも返事がない。
彼女の世話役である新堂の声さえしないところを見ると、誰かまた客が来ているのだろうか。
まさか、またあの性悪女でも来たのだろうか。
「……」
露骨に嫌そうな顔をしながらも、ちひろはリビングへの廊下を歩いて行った。
リビングまで歩いた彼女の視界に映ったのは、
「――――っ!」
何やら確認しながらスマホで話し込む仁助だった。
口調的に時折怒っていることが伺える。
「……ふう」
通話が終わって一息つく仁助は、ようやくちひろが帰ってきたことに気づいた。
「おう、戻ってたか」
「あ、うん☆ ただいま、仁兄!☆」
いつもの横ピースを決めるちひろ。
「どうしたの、電話? 何かあったの?」
「……」
仁助は、電話の内容を伝えるかどうか少し躊躇した。
話せばおそらく、確実に彼女は興味を示す。
だが、アイドル活動や学業を主軸に生活している彼女を、これ以上極道社会に踏み入れてほしくない、というのが仁助の本音だった。
今更何を、と自嘲する時もあるが、家族として、兄弟として、妹である彼女を守りたいという気持ちが彼にはあった。
しかし、同時に考える。
今回の一件に関しては、むしろ放っておいてはちひろを危険にさらす可能性がある。
両者を天秤にかけ、仁助が出した答えは、
「……今回の事件について、警察に確認を取ってただけだ」
素直に、すべて話すことだった。
「警察? またなんであんな公僕に?」
「嫌そうな顔をするな。まあ、気持ちはわかるがよ。今回の一件、一番情報を持ってるのは誰だと思う?」
仁助はちひろに聞く。
「え? え~と、警察?」
「違う。俺達だ。俺達の身内がやられた以上、組の連中総出で犯人を見つけ出す。それはこの街の表と裏、両方から情報を集めるのが確実だ。警察は表側に関しての情報や現場検証には強いが、裏側を探るのは向いてない。だから、俺達が情報を売り渡してるんだ。まあ、これに関しては今に始まったことじゃないけどな」
「そうなの?」
「ああ。目障りな敵対組織がいたら、下手にドンパチやるよりも、連中のボロを警察にチクってパクらせた方が都合がいいだろう? 俺達が直接手を下すより、損失が少なく利益がある。まあ、今の警部さんがいる間は大丈夫だろうさ」
仁助はそう言って、煙草を取り出し、一服する。
これは、ちひろにとっては初耳であった。
今まで彼がどうやって情報収集をしているのか気にはなっていたが、こうして話してくれたのは初めてであった。
「……それで、収穫はあったの?」
「ああ、もちろんだ」
そう言って、口元を歪めて、仁助は言う。
「次に奴のターゲットになりそうな奴が、見当がついた」
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