5th phase-19

「はーい、お疲れちゃん、サクたん!」

 いつも通りのテンションの所長を無視して、私は自分の席についた。

「……あれ、サクたん?」

 呆気に取られているのか、所長の間の抜けた声が聞こえた。

 まあ、特に問題はない。

「……何やってるの、サクたん?」

 ? 何を言ってるのか。

 ただ、私の愛刀を持っていこうとしているだけじゃないか。

「……あのターゲットは、私を次の標的と定めていると考えられます。なので、私を餌にして、奴を誘い出します」

「……それならそれで、風間君達の集合を待ってからでいいと思うけど?」

「いえ、今回の標的は、私が仕留めます」

 そう言って、刀を手に取り、歩き出した。

 が、私の肩が掴まれる。

「……何でそう思ってるのかわからないけど、勝手な行動はこれ以上、やめてほしいかな」

 肩を掴む手に、さらに力が籠められる。

 僅かな痛みすら感じるが、私にとっては些細なことだ。

「昨夜に何があったのか知らないけど、佐久弥、これ以上君に傷ついてほしくない。場合によっては、君を今回の任務から離すことも考えさせてもらうよ?」

 普段の茶化した調子ではなく、深刻そうな声色で話す所長。

 だが、それでも私は歩みを止めない。

「……すみません。今回ばかりは、引けません」

 瞬間、掴む腕を振り払うために腕を薙ぐ。

 不意を突かれたのからか、所長はそのまま勢いで肩から手を離す。

「……佐久弥!」

 所長は怒った様子で立ちふさがる。

 ここで時間を食っているわけにはいかない。

 私は三尺刀の鯉口を切った。

 瞬間、左頬に衝撃が走る。

「……」

 衝撃が来た方向には、いつの間にか風間さんが佇んでいた。

 それを見て、ようやく自分が風間さんに頬を叩かれたのだと理解した。

「……風間さん」

「……佐久弥」

 普段無口な風間さんが、口を開く。

「呑まれるな。怒りに身を任せて戦っても、冷静さを失い、致命的なミスを犯す。頭を冷やせ。おまえは、人間なんだから」

 そう言って、頭を撫でる。

「……」

 私は、どうかしていたのだろうか。

 私は、機械ではなかったのか。

 そう思い、手を見る。

「……!?」

 一瞬。

 ほんの一瞬だけだったが、確かに、見た。

 私の、人間として手。

 機械の外骨格ではなく、人間の血の通った手。

 今はまた、機械の無骨な腕が見えるが、確かに見えたのだ。

 嗚呼、よかった。

 今は、心の底からそう思う。

「……」

「……サクたん?」

 気が付くと、風間さんと所長が心配そうに私を覗き込んでいた。

「……すみません。ちょっと、どうかしてたみたいです」

「……大丈夫そう?」

「……はい。もう大丈夫です」

 そう言って、私は眼帯を外す。

「――――Open the eye」

 そして、眼を起動した。

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