5th phase-18

 その後、連絡した救急隊へあいつを任せた後、私は帰宅した。

 そして、その翌日。

 あいつは、学校へ姿を見せなかった。

 担任の話では、頭を誰かに殴られて気を失いそのまま意識不明、とのことだ。

 誰かが裏で手を回したのだろうか。

 所長か? いや、あいつとは面識がなかったはずだ。

 まあ、機械の私には関係ないことだ。

 あれから、私の腕は変わりなく、機械の外骨格のままなのだから。

「おい」

 突如、低い声がかけられる。

 声の主は、いまにも目で人を殺さんばかりの眼光を放つ、上条ちひろだ。

「ついてこい」

 そう言うと、この女は先に歩いていく。

 そうして、上条ちひろについていくと、教室からやや離れた女子トイレに入っていった。

 殺気を纏った女についていき、トイレに入る。

 瞬間、胸倉を掴まれる。

「どういうことだ! 説明しろ!」

 ドスの効いた声で問い詰める目の前の女は、いつものアイドル然とした彼女ではない。

 裏社会に君臨する組織『八条会』の、上条ちひろだ。

「……何の、こと?」

「とぼけるな! 嘉村真一が昨夜、てめえと遭遇したってのはわかってるんだ! 何があったのか、さっさと吐け!」

 息苦しいくらいに胸倉を掴まれ、威圧される。

 ただ、今の私にはどこか空虚だった。

 何というのだろうか、この感覚は。

 言葉にするなら、こうだろうか。

 どうでもいい。

「……ちっ」

 無駄だと思ったのか、舌打ちをして手を離す。

 反射的に咳き込んだ私から視線を離し、

「……何なんだよ、てめえといい、『二条』といい」

 そうつぶやくと、ある程度呼吸が回復した。私に視線を向ける。

「……話したくないなら、それでもいい。鬼道さんのことだから、何か事情があるんだと思う」

 そう言うと、彼女はトイレから出ていこうと背を向ける。

「ただし」

 そして、最後に常人なら底冷えするような視線とともに、私に言い放つ。

「もう二度と、嘉村真一に近づくな」

「……――――っ」

 一人残された私に、その言葉が何度もリピートされる。

 昨夜の、あいつが負傷した映像とともに。

 何度も、何度も。

 だが、不思議といつも通りの感覚だった。

 呼吸も正常、脈拍も正常。

「……」

 ふと、自分の手を見る。

 何ら変わらない。いつもの手。

 そう、これもいつものことだ。

 いつも通りの、機械の手だった。

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