5th phase-20

 深夜のとある雑居ビル。

 そこの屋上へ至る階段を上がる。

 随分前から使われていないらしいこのビルの、足場の悪い階段を歩いていくと、屋上へ通じる扉にたどり着いた。

 若干緊張しつつ、扉のノブを捻る。

 錆びかけた扉の先にいたのは、予想通りの人物だ。

「……よく、ここがわかったね、鬼道さん」

 傷口はまだ塞がりきっていないらしく、顔や腕に包帯を巻いた三鷹さんがそこにはいた。

 ヒーロースーツに包帯が巻かれ、風にマントを靡かせながら、建物の錆びた手すりにもたれている。

 彼の姿を確認すると、眼帯を外し、『眼』を起動した。

「――――Open the eye」

 この眼を見た三鷹さんの目が見開く。

「……なんだ、その眼?」

 これを見た大概の人の反応だ。

 まあ、異様だろうな。

「……この眼を使って、町中の監視カメラの情報から、あなたを捜しました。結構、時間はかかりましたけど」

「そんなことができるのか。凄いな、君は」

 感心した様子だが、和やかにするつもりは毛頭ない。

「……私が来た目的は、わかりますね?」

 そう言って、背中に背負った刀剣バックから愛刀を取り出す。

 そして、刀を腰に携える。

「……へえ、居合までできるのか」

 そう言うと、彼も手すりから体を離した。

 向こうもやるつもりらしい。

「……私は、あなたを許さない」

「? ああ、俺が始末した悪党に知り合いでもいたか?」

「いや、そうじゃない。そんな連中、どうでもいい」

「そうか。まあ、正義のためには仕方ない犠牲だけどな。悪は滅びるべきだし」

 どこか飄々として言ってのける彼。

 だが、

「……あなたは確かに、正義かもしれない。でも、善では決してない!」

 私は、そんな彼を否定する。

「……そもそも、人を殺してる時点で、私とあなたは同じ、ただの人殺しだ」

「……」

 何も答えない三鷹さん。

 それでも、次第に殺気が膨れ上がっていることが肌で感じられる。

「あなたが警察官であるならば、法の裁きの下で捕まえればいい。それをしていないのだから、あなたは、警察官失格だ」

「……君に、何がわかる!」

 堰を切ったように、三鷹さんは吠える。

「どんなに犯人を捕らえようと努力しようが、法の隙間を縫って生きてる連中は逮捕できない! それどころか、あいつらは本当に救われなきゃいけない人達を足蹴にして、私腹を肥やしている! こんな連中は、この世にいちゃいけないんだ! 俺が、俺こそが、正義だ!」

「なら、なんであいつを傷つけたんだ!」

 私も、言い返す。

「……!? あいつ? この間の少年か?」

「あいつは、嘉村君は、あなたに攻撃された私を助けるためにあなたを襲った。あいつは、人を平気で傷つけるような奴じゃない。そんなあいつを、おまえは傷つけたんだ。あの一瞬、おまえは、自分のエゴのために他人を傷つけたんだ」

「――――っ」

「今のおまえは、おまえの正義に泥を塗った、ただの人殺しだ」

「黙れ! それでも、俺は誰かを救うんだ! 本当に助けなきゃいけない誰かを! その邪魔をするなら、誰だろうが倒してやる!」

 激昂する彼は、怒りをむき出しにして、私に構える。

「―――あいつを傷つけたおまえを、私は許さない」

 そして、私も刀の鯉口を切った。

 満月が照らす、月下の元。

 最後の戦いが、幕を開けた。

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