5th phase-13

「お疲れ、サクたん! さあて、早速で悪いけど報告をお願いできる? みんな待ちくたびれてるし」

 事務所に戻った私を待っていたのは、所長を含めた、キッドさん以外の全員だった。

 まさか全員集合になるとは思っていなかったため、なんだか申し訳なさを感じてしまう。

「お待たせしてすみません」

 一言そう言って、私は警察署で聞いた事件の詳細を話した。

 田代警部補が怪しいことも含めて。

「……なるほどね。報告ありがとうサクたん。まあ警部補に関してはまだ放っておいていいと思うよ。今回はあくまでもヒーローが目標だからね。目標がぶれちゃう」

 ホワイトボードに情報を書き込みながら、所長が喚起する。

 まあ、それもそうだ。

 今の標的はあのヒーローであって、警察組織を潰すことじゃない。

 まず、この国の警察とやり合うとか、正気じゃない。

「……」

「どうしたのサクちゃん? 調子悪い?」

「……いえ」

 瀬見さんが気にして声をかけてくれる。

 実際、調子が悪いわけではない。

 ずっと、考えていたのだ。

「? どうしたの、サクたん? 心配事があるなら言ってごらん?」

 所長も珍しく茶化さずに促す。

 なら、言ってみよう。

「……痛みを感じない、なんてことがあると思いますか?」

 そう、これが一番気になっていたことだった。

 あの夜、私があのヒーローに刀を突き刺した時、ヒーローは怯むどころかさらに突き進んできた。

 あの、痛みを感じていないかのような彼に感じた恐怖が、脳裏を掠める。

「うーん、ちょっとわからないわね。あたし、トランスジェンダー関連なら知り合い結構いるけど、そんな人はわからないわ」

「あたしもパース。情報集めは得意だけど、知識はからきしだしー」

「……」

 紫苑さん、瀬見さん、風間さんが三者三葉に反応するが、誰も知ってそうになかった。

 やはり、ただの気のせいだったのだろうか。

「……もしかして、無痛症かな?」

 そうポツリとつぶやいたのは、所長だった。

「……無痛症?」

「そう。先天的に痛覚を感じない人だよ。劣性遺伝でほとんどの場合、そもそも生まれることがない。ただ、ごく稀に生き残る事例もあるみたいだよ。今回のあのヒーローも、その無痛症だと思うのかい?」

「……確証はないですけど」

「いやいや、流石だねサクたん! そういう予想は大事だよ!」

 一人頷く所長だが、何だか、引っかかっていた。

 何か、見落としていないだろうか。

「でもさ、その無痛症? で怪力なんだよね、そのヒーロー? どうやってあんな怪力手に入れたんだろうね? 映像で見た限り、むしろ細身っしょ、あいつ?」

「それは違うよ。彼は、むしろ無痛症だからこそ、あの怪力が出せるんじゃないかな。無痛症の彼は、他の人と比べて情報が受け取れない。おそらく子どもの頃からね。痛みという外部からの情報が仮に入力されても受け取れない彼は、いわゆる加減ができない状態のままで成長する。だから、手加減ができないんだ。いわゆる火事場の馬鹿力が常に働いている状態なのさ。この辺りはドクターに聞くのが一番だけどね」

「相変わらず頭回るわね、あなた」

「いやー、紫苑さんに褒めてもらえるのは光栄だね。まあ、ほどんど僕の推測だけど」

 偉そうに熱弁する所長。

「さて、今日はお疲れ様、サクたん。早いけど、今日は早めに上がっていいよ。昨日の疲れも残ってるだろうし」

 そう言われて時計を見る。

 深夜帰りがいつものこの事務所からすると、確かに早い。

「わかりました。今日は先に失礼します」

「うん、それがいいよ! 早く寝た方が育つかもしれないよ、特にそのない程のののののの!?」

 さて、耳障りな所長もハードカバーの角が黙らせてくれたみたいだし、お言葉に甘えて早めに帰ろう。

「……」

 その本を奪い取られた風間さんは、ちょっと悲しい顔をしていた。

 その、ごめんなさい。

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