5th phase-14

「……」

 闇夜の住宅街を、一人歩く。

 静寂に包まれた街角に、私の足音が良く響く。

 正直、もう疲れた。

 先日の戦闘があってから、なかなか休めないでいたためか、体が異様にだるい。

 さっさと帰って、シャワーを浴びてバッドへ飛び込みたいほどだ。

 しかし、どうやらそうはいかないらしい。

「……!」

 突如、冷たい殺気が私を襲う。

 即座に周囲を見渡すと、殺気の主はすぐに見つかった。

「……すぐに見つかったか。流石、私を不意打ちしただけはある」

 さっきの主は、件のヒーロー。

 今までのヒーロー然としていた立ち振る舞いではなく、明らかにヒーローの仮面を捨てた、本人であるかのような口調だ。

「だがしかし、バレてしまったなら仕方ない。ここで始末させてもらおう」

 冷酷な殺気を纏ったまま、私に近づくヒーロー。

 だが私には、彼の正体に、確信に近い検討がついていた。

「……何となく、考えていました」

 殺意を一身に受け、私は言う。

「あなたがそもそも、どこから情報を得て、ターゲットを決めているのか」

 ずっと頭の片隅に置いていた疑問の答えを、口にする。

「今回の件にしたって、そもそも何故あの古川のターゲットとしたのか。それは、そもそも情報のリーク元が同じだから。私が古川の素性を知ったのも、この街の警察署。それが偶然、ターゲットが被るなんてありえない。いくら時間間隔が空いていたにしたって、警察から指定されたターゲットが本当に狙われる確率は、そんなに高くない。わざわざ狙うなら、この街なら他のヤクザ連中だっている。それなのに、ターゲットが被った理由は単純で、私とあなたで、情報を提供した人物が同じだからだ」

「……」

 私の言葉に、無言で佇むヒーロー。

「この前提で考えると、答えは警察関係者の誰かと見当がつく。そして、このヒーロー事件に関係しているのは田代警部補。でも、あの人はあくまでも情報提供者。なら、あと考えられるのは、彼の部下」


「……そうですよね? 三鷹巡査」


「……やれやれ、よく頭が回るね、君は」

 そう言って、彼はマスクを取った。

 その素顔は、昼間も見た、頼りなさそうな人物。

 だが、あの時とは雰囲気が異なり、強い意志と殺気を伴った、昼間とは別人のような破棄を纏った男だった。

「でも、よくわかったね。僕がヒーローだって」

「……自身はありませんでした。でも、確信を得たのは今日です。指を切ったにもかかわらず、痛みを気づきもしなかった。それだけならまだしも、腕を擦りむいただけにしろ、傷ができているのに仕事をしに職場に来ていた。これは、痛みを我慢しているんじゃなくて、そもそも痛みを感じていないんじゃないか、って」

「……僕が無痛症なのも、お見通しなのか。なら、もう何でも筒抜け、かな?」

 肩をすくめる三鷹さん。

「……いえ、わからないこともあります」

「?」

 そして、私は今なお残る疑問を口にした。

「……三鷹さん、あなたのバックにいるのは、『二条』と『八条』、どちらですか?」

「――――っ!?」

 今度こそ、三鷹さんの目が見開かれた。

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