Lost phase-18
先に館を出た風間を待ち受けていたのは、ひたすらの静寂だった。
特殊作戦群が動いているにしては、それ以上の静けさだ。
全く、人の気配がない。
「……!?」
それもそのはずだ。
風間の足元に転がる、銃を手にした男達の屍。
その死屍累々は、全く動く気配はない。
皆、頭や心臓を撃ち抜かれており、頭部や胴体に風穴を開けていた。
風間は足を引きずりながら、警戒心を強める。
神経を研ぎ澄ませ、周囲の気配を探る。
そして、倒れた死体を観察した。
手にした装備から、自衛隊の関係者ではないことが伺える。
どちらかといえば、武装ゲリラの装備に近いのだろうか。
その装備をした彼らに、風間は心当たりがあった。
「……こいつら、あの仁井谷の部下か」
観察結果から、風間はそう結論付けた。
無数に倒れた死体は全て、仁井谷阿高の部下のものだった。
「……」
さらに注意深く、周囲を見回す。
死体が無数にあるということは、誰かが殺ったということだ。
つまり、まだ犯人は近くにいるはずだ。
「……」
緊張感が、嫌でも高まる。
瞬間、
「オ―、風間! 逃ゲチャダメネ!」
急な大声が聞こえ、視線を向ける風間。
そこには、大柄の巨漢、クリストフの姿があった。
「ソレニ、オレノ仲間ヤッタノ、オマエカ!? 絶対許サナイ!」
ひどく激昂している様子で、明らかに頭が沸騰しているようだった。
しかも、どうやら風間が目の前の惨状を作り出したものだと思っているらしく、始末が悪い。
「おい、待て! 俺は……」
「シャラップ!」
一瞬で身を屈めたクリスは、強力なバネに弾かれたような速度でタックルを仕掛けた。
「……!?」
巨漢の自重と速度から生まれる特攻は、風間の弱った体では躱すことができなかった。
瞬間的な浮遊感が風間を襲い、そのまま押し倒されてしまう。
「ソノ傷デハ、避ケレナカッタミタイデスネ! デハ、キル、ユ―――!」
クリスが拳を振り上げる。
瞬間、鮮血が舞った。
風間のものではない。
「……ワッツ?」
背中から血を流しているクリスでさえ、何が起こったのかわかっていなかった。
「……ナンデ―――」
血が出ている?
そうつぶやこうとした刹那、追撃の弾丸がクリスの背中から胸かけて貫通する。
そのまま倒れ伏したクリスをどかした風間は、弾丸が飛んできた方角に視線を向ける。
その距離、おそらく1 km。
闇夜で視界の悪い中、さらに山間部で木々が鬱蒼としている中の、長距離狙撃。
そんな芸当のできる人間を、風間は一人だけ知っていた。
「……ったく、正義の奴、事前に言っとけよな。でも、感謝してるぜ、キッド」
姿の見えない相手に対して、ニヤリと笑みを浮かべた。
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