Lost phase-19

「何ニヤついてるんだか、気持ち悪い」

 スコープ越しにライフルを構えながら、フッと笑みを浮かべて木登はつぶやく。

 愛銃のM40から指を離し、風間の無事を確認すると、木登は物思いに耽っていた。

 彼は、かつてはオリンピックへの出場が注目されるほどの射撃の名手だった。

 そんな時だった。

 彼の、右目が見えなくなったのは。

 とある事件で完全に視力を失い、オリンピックを断念せざるを得なくなったのだ。

 木登にとっては、命を失ったのと同じことだった。

 人生の全てを射撃に捧げてきた彼は、全てを失った。

 自暴自棄となった彼だったが、その時に尋ねてくれたのが、今の彼の奥さんだった。

 とある事件の中心であり、彼にとっては選手生命を絶った人物。

 それでも、彼は彼女を許したのだった。

 理由は、簡単なことだった。

 彼女に、惚れてしまったから。

 それを言ったときの彼女の顔は、今でも覚えている。

 自責で押しつぶされそうで、それでいてとても嬉しそうだった、彼女の表情。

 その涙をぬぐい、笑ってくれと言ったことも、今でも忘れない。

「……だって、そうだもんな」

 彼は、今でも思う。

「……こんな俺を、ちゃんと俺として愛してくれてるのは、お前だけだもんな」

 そう、彼女は木登を愛してくれた。

 オリンピック選手としての彼ではなく、木登將司としての彼を。

 何も見えなくなった片眼を、ドクターの手によってサイバネティクス技術の実験体となった今もなお。

 あくまで、風読みと人の目と同じ程度の、何でもないサイバネティクスの己の目。

 そんな彼になってもなお、彼を愛し続けてくれる彼女。

 軽薄にナンパをしている彼を、時に殺そうとしながらも。

 それでも、彼を愛してくれていた。

 そんな彼女を、裏切らないように。

 そう、心に誓って。

 そうは言っても、ナンパは挨拶だからやめれないけれど。

「……さて、俺も撤収しますか」

 そう言ってライフルバックに手を伸ばす木登。

 しかし、

「……ん?」

 何か違和感を感じ、再度スコープを覗いた。

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