Lost phase-17
土煙がいまだに舞う室内で、二人の男がにらみ合う。
「……」
「……」
正義はじっと阿高を観察する。
―――……主兵装はモーゼル。サブ兵装は胸ポケットの膨らみ具合から、サバイバルナイフだろうか。あとは、足に仕込んだ小型の拳銃だろう。
素早く分析を済ませ、正義は阿高を注視する。
阿高は冷や汗をかきながら、モーゼルを向けて正義を睨みつけていた。
明らかに、余裕はなさそうだった。
「阿高!」
突如、室内にジェニーの声が響く。
「「……!」」
その声が、合図となった。
二人は同時に引き金を引く。
ただの目暗撃ちのため、全く命中はしない。
だが、正義の発砲は精度が違った。
阿高の弾丸は掠ることさえないが、正義の射撃は足や脇腹を正確に削る。
暗視ゴーグル越しに命中しなかったのは、一重に阿高が放つ銃弾が正義の弾丸の軌道を逸らしているからに過ぎない。
まともに弾丸同士がぶつかり、弾道変化として口径が小さいモーゼルの方が不利というのも、要因の一つだろう。
「……ちっ!」
阿高が舌打ちをしながら、後退る。
射撃では明らかに、自分が後れを取っている。
そう判断した阿高は一瞬の隙に壁に身を隠した。
「……隠れたか。今の内だな」
そう呟くと、正義は射撃の角度を変えて、弾丸を放つ。
弾丸は跳弾し、後ろ手に縛られた風間の鎖を穿つ。
「……!?」
「これで動けるだろう、風間?」
正義の狙いは、最初からこれだった。
阿高を含めた敵勢力をこの部屋から引き離し、拘束された風間を開放することが目的なのだ。
「……ちっ、借りができたな」
「今回の作戦はノアの立案だし、おまえを探し出したのは新人だ。二人に感謝しろ」
「……あいつらが?」
風間は信じられずにいた。
彼等に対し冷たく接し、まだ会って間もない人間に対して、ここまでのことができることが、彼にとっては信じがたいことだった。
「なかなか人を信じられないおまえだが、あいつら、特にノアに関しては、おまえよりも人間らしいよ」
「……」
「何か思うところがあるようだが、ここは戦場だ。話はここを脱出してからにしよう」
「……ああ」
風間は首肯すると、何とか腰を上げる。
痛みで倒れそうになるが、正義に支えられ、廊下まで歩く。
瞬間、彼らの視線の先を弾丸が過ぎった。
「……くそっ、外したか」
弾丸の主は阿高だった。
冷や汗を流し、精神的にも肉体的にも憔悴しているのは明らかだった。
「……風間、このまま下に降りて脱出しろ」
「おまえは?」
「すぐに追いつく。行け」
「……わかった」
風間は阿高達に背を向けて歩き出す。
「! 逃がすか!」
阿高は風間に向けて発砲しようとする。
が、それは叶わなかった。
正義が即座に小銃を発砲する。
「……!? くそがっ!」
弾丸が当たることを恐れた阿高は弾丸を乱射しながらも壁に身を隠し、やり過ごす。
再度、風間を狙おうと身を出した時には、既に風間の姿はなかった。
しかし、正義もただではすまなかった。
「……やられたな」
小銃の銃身に弾丸が命中し、銃身が歪んでいた。
この状態で発砲すれば、銃が暴発するのは明らかだった。
それだけではない。
どうやら暗視ゴーグルが撃たれたらしく、視界が真っ白にトンでしまった。
これでは射撃はおろか、周囲を確認することもままならないだろう。
「……仕方ないか」
正義は暗視ゴーグルを勢いよく脱ぎ捨てた。
さらにアサルトライフルを放棄し、予備兵装のH&K社製USPを取り出し、スライドを引く。
「……」
深呼吸を一つして、気を静める。
そして、阿高達の前に躍り出た。
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