Lost phase-15

「ようやく目を覚ましたか」

 風間が目覚めたのは、薄暗い一室だった。

 椅子に座った状態の彼は、未だ頭のはっきりしない状態のまま周囲を見渡す。

 かつては民宿だったらしい畳のある木造の建物は、かなりの年期を感じさせる程に朽ちている。

 風間に声をかけたのは、自分が追っていた男、仁井谷阿高だった。

「……ここは?」

「俺達のアジトだ。昔は山荘として一般用に使っていたものを俺達が買い取ったんだ。兵の演習もできるからな。都合がよかったんだ」

「……なんだ、案外、おしゃべりなやつなんだな、あんた」

「無力な獣を相手にしてるからな。なあ、『黒拳』?」

「……!?」

 瞬間、目が覚めた風間は自分の状況を確認した。

 鎖で両腕を縛られ、身動きが取れない。

「……なぜ俺を殺さない?」

「ふん、おまえには聞きたいことがあるからな。そのまま連れてきたんだ」

 そう言って、阿高はモーゼルを抜く。

 存在感のある銃口が、風間に向けられる。

「言え。おまえはどこの手のものだ?」

「……さあな」

「……!」

 瞬間、炸裂音が響く。

 モーゼルが火を噴き、風間の右足を貫通する。

「……痛ぅ!?」

「質問に答えろ。それ以外は聞きたくない」

 冷徹な重々しい声が響く。

 阿高から発せられた声には、一切の容赦がなかった。

「さあ、吐け」

「……随分、余裕がないんだな、あんた」

「……!」

 さらに、発砲。

 身動きの取れない風間の、今度は右肩を撃ち抜く。

「……がっ!?」

 痛みで気を失いそうになるが、風間はなんとか意識を保つ。

「さて、しゃべる気になったか?」

「……」

 歯を食いしばり、痛みを堪える風間。

 出血が止まらず、ドクドクと流れ出ている。

 普通の人であれば痛みと恐怖で口を割りそうなところだが、風間は己の胆力でなんとか堪えていた。

「……これでも吐かないか。うちの兵に欲しいくらいだな」

「……へ、そいつは、どうも」

「……減らず口が叩ける余裕も、まだあるか」

 そう言うと、室内のとある一角を一瞥する阿高。

 そこには、錆びた鋸や鉈などの工具類が転がっていた。

 ただの錆び方ではなく、明らかにその使用用途が暗示されている錆び方だった。

「……いっそ、腕の一本でも切り落とすか?」

 ショック死しかねない拷問を考えていた阿高。

 その時だった。

「阿高!」

 慌てた様子のジェニーが飛び込んできたのは。

「何事だ?」

「アジトに接近してくる奴らがいる! 動きからして、どこかの特殊部隊だ!」

「!? 特殊部隊!?」

「ああ! 数は10数人!」

 ファンの言葉に、一気に焦りの色が出る阿高。

 この山荘のアジトがバレた理由が、一切わからないのだ。

「……まさか、おまえか?」

 阿高は風間を睨む。

「……手ぇ、繋がれてる、人間が、連絡、なんて、できるか?」

「……」

 息絶え絶えな風間の言葉に、考える阿高。

「……仕方ない。別の拠点に移るぞ」

 指示を出す阿高には、ある種の打算があった。

 この山荘に繋がるルートは二つ。

 脱出用の獣道を除く山道には、幾重ものトラップが仕掛けられている。

 クレイモア地雷やワイヤートラップなど、闇の中で効果的なトラップが数多く設置してあるのだ。

「残った兵に連絡! この施設を放棄して……!?」

 阿高が指示を出そうとした瞬間だった。

 山荘の上から、音が聞こえた。

 それは、モーターによる回転音であることに気づくまでに、そんなに時間はかからなかった。

「……!? なんだ!?」

 そして、阿高は窓から外を覗いた。

 そこにあったのは、漆黒の巨大なヘリ。

 闇夜でも補足されないように塗装されたそれは、紛れもなく夜襲用に整備された軍用ヘリだった。

 CH-47J/JA チヌーク。

 ボーイング・バートル社製の大型ヘリが大きな音を轟かせながら、その存在感を放っていた。

「……おいおい、連中はここで戦争でも始める気か!?」

 目の前の光景に驚愕する阿高。

 そして、彼は見た。

 そのヘリの、ドアが開く。

 そして、まさにこの上空に滞空するそのヘリから、人がそのまま飛び降りたのだった。

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