Lost phase-14
風間重一郎の空手の師匠は、かつて彼にこう言った。
「全ての武道の奥義は、愛にある」
病で死の淵にいる男の言った言葉に対し風間が返した言葉は、
「……は?」
だった。
風間にとって、空手は気に入らないやつをぶっ倒す手段だった。
幼い頃から習っていて才能もあった彼は、誰にも負けることはない、まさに神童だった。
中学に入った頃、思春期に入ったこともあってか喧嘩に明け暮れた。
喧嘩を吹っかけてきたやつを片っ端から倒していた。
そして高校生にして、空手三段の実力者となった彼は、ヤクザの用心棒などをやって、いつしか裏社会に首を突っ込むようになっていった。
それと同時に、彼は自身の手を血で染めていった。幾人もの人間を殺めていくたびに、確かに彼は力を実感していった。
しかし、戦いに決して愉悦を覚えてはいなかった。
彼はただ純粋に、実戦で空手こそ最強だと証明するためだった。
若気の至りで始めたことだったが、気が付けば引けないところまで来てしまっていた。
そんな頃だった。
鬼道正義と出会ったのは。
当時、自衛官となっていた彼とは、高校の同級生だった。
卒業する以前から話すことすらなかったが、そんな彼からの仕事は報酬がよかったこともあり、高い頻度で引き受けていた。
正義と仕事を共に仕事をするうちに、風間は彼に興味を持っていった。
常に冷静沈着で冷酷非情。情け容赦なく、手段を択ばない。
人質を取られても任務を優先し、人質諸共始末することさえあった。
そんな彼に対して、風間は修羅の化身だとさえ思った。
激烈な殺人機械の彼だが、ある日を境に、その性格は一変した。
彼が、結婚し、あまつさえ子供ができた時だった。
その知らせを聞いた風間は、自分の耳を疑った。
あんな冷酷な殺人機械が、結婚?
理解ができない。
そのくらいに衝撃的だった。
それからだ。
彼が、変わってしまったのは。
戦いにおいても一見冷徹に見えるが、人を殺すのに躊躇の色があった。
任務を完遂することに変わりはないが、明らかに非効率な手段を選ぶことが増えていた。
そして何より、任務終了後の部下に対して、笑顔を見せることなど、過去に一度たりともなかった。
その光景に、風間は呆気にとられ、
そして、激怒した。
なんだ、その腑抜けた顔は。
ふざけるな。
あの冷徹な殺人機械だった男は、どこに行ったんだ。
許せなかった。
裏切られた気さえした。
そして、風間は誓った。
必ず、昔のあいつに戻してやる。
あの、冷徹な殺人機械に。
そう、彼は誰ともなく誓った。
そして、風間は、目を覚ました。
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