Lost phase-8

 風間の行動は早かった。

 敵の持つ銃の中で最も威力の高いデザートイーグルを、まず潰す。

「……セイッ!」

 クリスの手に強烈な足刀を叩き込む。

「アウチッ!?」

 クリスは突如襲った痛みに苦悶の声を上げ、銃を弾き飛ばされ、さらに空中分解してしまった。

 ただの足刀がデザートイーグルを破壊する光景は、応戦する彼らにとっては戦慄するのに十分だった。

「クリス!?」

 ジェニーが心配の声を上げるが、風間は疾風迅雷の勢いで彼女を襲い掛かる。

「よそ見してていいのかよ?」

「……!?」

 ジェニファーの腕に拳を叩き込み、銃を落とさせた。

「……ちっ!」

 落とした銃を即座に拾おうと動いたジェニー。

 しかし、それは適わなかった。

「……!?」

 手が、痺れる。

 麻痺したように手指が痙攣し、彼女の言うことを聞かない。

「腕の神経だけを殴った。筋肉と筋肉の隙間を的確に殴れば、神経だけにダメージを与えられるからな。敵を無力化するだけなら、これでいい」

 風間はあっさりというが、決して簡単なことではない。

 人体構造を知り尽くし、その上で的確に狙わなければこんな芸当はできないのだ。

「……オウ、コレガ、ジャパニーズ・カラテマスター、風間」

 クリスが痛みから立ち直り、構える。

「へー、案外タフだな。流石に元プロレスラーか?」

「……オー、ミーヲ、知ッテルノカ?」

「格闘技かじってる俺らの世代が、かつての世界チャンプを知らねえわけねえだろ」

 感心したように風間もクリスへターゲットを戻す。

「……くそっ! 舐めやがって!」

 モーゼルで風間を狙う阿高。

 だが、彼の圧倒的な立ち振る舞いを目の当たりにして、動揺から照準が定まらない。

「……このままじゃ、味方に当たるか」

 そう呟くと、阿高は銃を下に向ける。

「おや、案外冷静だな。もっと逆上して撃ってくると思ってたぜ」

「……頭を冷やさないといけない状況は、それなりに多かったからな」

「なるほど、そっちも修羅場潜ってるってことか」

 阿高の慎重な行動に感心する風間は、再びクリスに視線を戻す。

「さて、かかって来いよデカブツ」

 風間のあからさまに挑発に、クリスは青筋を浮かべる。

「……キル・ユ―――ッ!」

 キレてタックルを仕掛けるクリス。

 一般人がまともに受ければ骨折は免れないほどの威力のそれに、

「……せいやっ!」

 風間は渾身の膝蹴りで応えた。

「……っ!」

 風間の膝はクリスの顔面に突き刺さり、そのままクリスは沈黙する。

「……へっ、仕留めた」

 勝利を確信し、ニヤリと笑う風間。

 しかし、

「……ガッデム!」

 その叫び声が聞こえたのは、沈黙していたクリスからだった。

「……!?」

「ソノ程度ノキックデ、私ヲ倒ソウナンテ、愚カダナ!」

 風間の強烈な膝蹴りを食らったはずの巨漢は、風間の膝を掴むと、持ち前の怪物じみた筋力で彼を持ち上げた。

 風間は、完全に見誤っていた。

 プロレスラーの、耐久力を。

 狭いリングでぶつかり合うレスラーにおいて、もっとも凄いのは筋力ではない。

 いくらぶつかったり攻撃を受けても倒れない、不屈のボディそのものなのだ。

「……オマエ、ココデ、死ネ!」

 怒号を飛ばしたクリスは勢いよくその場で持ち上げた風間を投げ飛ばす。

 そして、空中で風間を掴むと、体勢を変え、風間の脳天が床にぶつかるように持ち変える。

「……!?」

「ユー、デッド!」

 この後に迫る衝撃が想像され、抵抗する風間。

 しかし、完全にクリスに動きを封じられ、脱出できない。

 そして、落下。

「……―――――っ!!?」

 コンクリート製の地面にパイルドライバーを受けた風間は、衝撃とダメージを逃がすことができず、気を失った。

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