3rd phase-5

 サイボーグ。

 SF映画などで馴染みがあるが、敵になると恐ろしいものだ。

 私も部分的にはこれに該当するのかもしれないが、私の場合、ベースは生身の人間だ。

 目の前の連中は、果たしてどうなのか。

 答えはすぐに返ってきた。

「俺達はお嬢ちゃんが言った通り、サイボーグだ。元は人間だったんだが、ある企業さんが、俺達で試作したかったらしくてな。おかげさんで、俺達は人間やめた、ってとこだ」

「しゃべりすぎよ、ジョーン」

 女の方が窘める。

 今のでわかった。

 こいつらは、完全に機械の体なのだ。

 今でもたまに出てくる幻覚。

 その、成れの果てなのだ。

「……」

 痛みをこらえ、身を起こす。

 全身に痛みが走る。だが骨は折れてないみたいだ。

 なら、まだ戦える。

「おいおい、まだやるのかお嬢ちゃん? 満身創痍って感じだが?」

「なら、あんたはその子の相手をお願いね、ジョーン」

 そう言うと、女の方が私の横をすり抜ける。

「……っ!」

 女を追おうとするが、思うように体が動かない。思いのほか、ダメージが大きいらしい。

「おいおい、お嬢ちゃんの相手は俺……だぜ!」

 男が思い切り振りかぶったパンチを放つ。

「……っ!」

 私は男の背中側に体を回転させ、攻撃を流す。

 そのまま腕を滑るように走らせ、そのまま男の顎を捉え、入り身投げを見舞う。

 受け身をろくにとれなかった男は、そのまま後頭部から地面に落下した。

「……ってぇな!」

 しかし、やはり鋼のボディのサイボーグには効果は薄いらしい。

 後頭部をさする男は、なんでもなかったように立ち上がると再び構える。

「しかし、へえ、日本のジュウジュツってやつか。初めてだぜ」

 興奮気味の男。

「だがよ、機械の俺には、そんなの効かないぜ!」

 ボクシングのラッシュで突っ込んでくる男の攻撃を、私はなんとか躱す。

 西洋と東洋では、戦い方に違いがある。

 空手や中国武術に代表される東洋の武術は、連撃やラッシュよりも一撃必殺が主だったスタイルだ。

 対して、西洋の格闘はボクシングやパンクラスに見られる、一撃が重い打撃を複数叩き込むことが主なスタイルだ。

 少なくとも私の場合、こういった異種格闘戦は不慣れだ。

 何とか隙を見極めようとしても、次の打撃が飛んでくる。

「……っ」

 蓄積されたダメージが私を襲う。

 正直、かなりキツい。

「おいおい、反撃がねえな。ダメージが限界か?」

 ラッシュを打ち込みながらも話す余裕があるのは、ある意味うらやましい。

 こっちはもう満身創痍なのに。

「んじゃ、これでフィニッシュだ!」

 とどめの一撃のためか、腕を大きく振りかぶる。

 ……それだ。

 それを、待っていた。

「……っ!!」

 男の一撃を相手の正面側に躱し、手にした刀を振りかぶる。

 そして、そのまま振り下ろした。

 すると、男の首はあっさりと両断され、地に落ちる。

 予想通りだった。

 首をさすっていたことから、首への攻撃は通るのではないかと思っていた。

「……」

 そのまま、首が離れた男を観察する。

 ピクリとも動く気配がない。どうやら頭部を切断されたことで機能を停止したらしい。

「……痛っ!」

 ダメージが限界を迎え、崩れ落ちる。

 そのまま、地に倒れようと体を傾けた。

 しかし、

「……よっと」

 それは適わず、誰かに受け止められた。

「……所長?」

「間に合ってよかった、サクたん」

 受け止めたのは、所長だった。

「……コンバルトさんは?」

「迎えに来てくれた紫苑さんが連れてってくれた。もう大丈夫だよ」

「……そう」

 一先ず安堵する。

「……ごめんね」

「……所長?」

 所長の手に力がこもる。

「……ごめんね、佐久弥。こんなになるまで、戦わせて」

 ポツリポツリとだが、確かに言った。

 それはどこか哀しげで、悔しそうだった。

 いつもの茶化す雰囲気ではない。

 何か大切な何かを壊されてしまった子供のような、そんな雰囲気があった。

「……あの、所長……」

「おや、逃げられたのかジョーンさん。後でお説教だね」

「……!?」

 その言葉は、所長のものではなかった。

 声のした方に視線を向けると、そこにはあの中国人がいた。

「……おまえ」

「おっと、今日はもうやめとくよ。あの『黒拳』と戦えたのは嬉しかったけど、ターゲット逃げちゃったしね」

「……風間さんは?」

「撒いてきたよ。最後に、お嬢さんの顔を見ておこうと思ってね」

「……私の?」

 こんな拳法の達人が、私に何の用だ?

「いやさあ、やっぱり気になるじゃない?」


「あの、鬼道正義の血族ならさ」


「……!!?」

 衝撃が走った。

 この男は、父を知っている。

「……おまえ」

「おっと、ここまでだな。んじゃぁな、お嬢さん」

 そういうと、どこへともなく走り去った。

 風のように消えるとは、このことだろうか。

 そして、代わりに姿を現したのは、

「……」

 いつものダークスーツをぼろぼろにした、風間さんだった。

「風間君も来たみたいだし、帰ろうか」

「……」

 所長の言葉に、無言で頷く。

 ずっと、頭の中に木霊していた。

『あの、鬼道正義の血族ならさ』

 それは、私が求めていた答えかもしれない。

 あの男なら、私の求めたものを持っているのかもしれない。

 その期待と不安で、頭の中はいっぱいだった。

 そして、決意する。

 私は再び、必ずあの男と会う、と。

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