3rd phase-4

 中華風の男だった。

 身長は180 cmくらいだろうか。長身の痩せた、腰まで届く程の長髪の東洋人の青年がそこにはいた。

 彼の蒼い中華服に金糸で刺繍されているのは、龍だろうか。

 彼の背後にさらに2人。2 mくらいのガタイのいいスーツの中年の男と、160 cmくらいの細い、女性用スーツの妙齢の女性。

 どちらも白人。不敵な笑みを浮かべる不気味な連中だった。

「おやおや、ご丁寧に挨拶かい? 余裕だねえ」

「そりゃな。アンタら程度なら俺だけでも十分なんだが、クライアントが後ろの2人も連れてけってうるさくてさ。仕方なくさ」

 所長の軽口にあっさりと返す青年。

 だが言葉とは裏腹に、圧倒的な殺気を放つ彼は、相当な実力者に違いない。

「……」

 こっそりと愛刀である『時雨』に手をかけ、鯉口を切る。

「……っ!」

 居合の要領で刀を抜き、青年の首めがけて抜き放つ。

 瞬間、青年が消えた。

「危ないな、お嬢ちゃん」

 その声は、刀の切っ先から聞こえた。

 視線を動かすと、刀の切っ先につま先部分だけで立つ青年の姿があった。

「軽身功ってんだ。これを体得するのに5年かかったんだぜ」

 軽身功。

 確か、中国武術の身を軽くする技術だったか。

 この技を体得するのに何十年とかかるらしいが、目の前の男は5年で体得したと言ったか?

 こいつ、ヤバい。

「……っ!」

 勢いよく身を引くと、男は素直に刀から飛び降りた。

「今のはちょっとした挨拶だ。いかがかな?」

「……」

 刀を正眼に構える。

 すると、

「……」

「風間さん!?」

 私と男の間に風間さんが割り込んだ。

「へえ、あんたが風間重一郎さんか。噂に名高い『黒拳』と手合わせできるなんて、今日は吉兆かな」

 そう言って、中国人も構えた。

 空手の手刀構えに似た、独特の構えだ。

「……」

 対する風間さんも天地上下の構え。

 お互いがお互いを威圧し、隙あらば殲滅する。

 そんな空気感が漂う。

「……サクたん、今のうちにコンバルトさん連れて逃げるよ!」

 所長の言葉で我に返る。

 そうだ、こういう時はわざわざ戦う必要なんてない。

 目的は、護衛対象を守ることなんだから。

「おっと、逃がすかよ」

 そう言って、白人の2人がこちらに迫る。

「所長、先に行ってください」

「……わかった。任せたよ、サクたん」

 少し何か考えた様子の所長は、コンバルトさんの手を引いて走る。

「おいおい、相手はこんなガキ一人らしいぜ、グロリア」

「嘗められたものね、ジョーン。あたし達も」

 そう言って、目の前の2人が呆れた様子で構える。

 ファイティングスタイルからして、軍式格闘技だろうか。

 まあ、その程度なら相手したことがあるから、大したことはないな。

「……」

 脇構えから縦に刀を男の方に振り下ろす。

 すると男は、腕をクロスするように防御行動をとった。

 断った、と思った。

 しかし、響いたのは金属音だった。

「……っ!?」

 衝撃的だった。

 特別に作製されたこの『時雨』は、人の腕など幾度となく両断してきた。

 しかし、目の前の映るのは、両腕で防御され、刀と拮抗する光景だ。

 手甲でも仕込んでいるのか?

 それとも鉄でも仕込んでるのか?

「……わかってねえ顔だな、お嬢ちゃん?」

 ニヤリと笑う、目の前の男。

「まあ、教えてやる義理はねえが、な!」

「……っ!?」

 男の強烈な蹴りが腹に入る。

 その威力で、私は吹き飛んだ。

 受け身を取るが、足場はリノリウム。ダメージを完全にいなすことはできなかった。

「……っ」

 思わず歯噛みする。

 まるで、軽自動車での交通事故にでもあったような威力だった。

 人体でこれほどの威力はなかなか出せるものではない。

 そして、ある理由に思い至った。

「……サイボーグか」

「あら、わかるのかしら、お嬢ちゃん?」

 さっきから見ていたらしい女の方が言う。

 嫌な予想というのは、どうやら当たってしまうらしい。

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