3rd phase-final

 翌日、私は平日だったこともあり登校していた。

 あの後一応病院へ行ったが、幸いなことに骨は折れていなかったこともあり、所長から登校の許可が下りたからだ。

 みんなからは一応休んだ方がいいと言われたのだが、顔などの目立つ箇所に傷はないからいい、と半ば強引に登校した。

 なぜこんなに学校に行くことに積極的なのか、実は自分でもわかってはいない。

 もしかしたら、登校することがある種のルーチンワークになっていることもあるからなのかもしれない。

 まあ、コンバルトさんの護衛は風間さんあたりがやるだろうから、気にしないでおこう。

 学校について、席に着く。

 ……あいつは、まだ来ていないみたいだ。

 そこで、ふと我に返る。

 私は何をがっかりしてるんだ。

 一日あいつと会わなかっただけだ。

 いつものルーチンが崩れただけだ。

 ……本当にそれだけか?

 時々、自分でもわからない。

「……」

 いつもの通り、とりあえず机に突っ伏す。

 すると、

「おはよう、鬼道さん」

 そう言って、あいつが来た。

 嘉村真一という男は、今日も返事をしない私に話しかけてくる。

「最近雨が多いね。もう梅雨だよ」

「……」

 嗚呼、またわからない。

 何であいつの言葉だけで、こんなに癒されるのかわからない。

 あいつの声で、こんなに安らぐのかわからない。

「はい、席について!」

 担任の男性教諭が入ってきた。

 その声に合わせて、私も姿勢を正す。

 目の前のこいつが来るのが遅かったから、短かったな。

「今日は留学生がうちのクラスに来る。みんな仲良くするように」

 昔気質の男性教諭が言う。

 というか、留学生? そんな話あったっけ?

「そうか、今日だったっけ」

「どんな人なんだろ」

「イケメンだったらいいなぁ」

 教室がざわつき始める。

 どうやら私が知らなかっただけで、クラス内ではすでに知れ渡っていたらしい。

 まあ、どうでもいいことだけど。

 私は関わる気はないし。

「静かにしろ! それじゃ、入ってきて」

 先生が言うと、教室のドアが開き、入ってきた。

 瞬間、時間が止まった。

 最近見た、金糸のような髪。

 最近見た、蒼い瞳。

 学校ではないところで見た彼を、私は知っていた。

 違うところと言えば、この前はスーツ姿だったのが、この学校の指定制服に変わっているくらいだろう。

「初めまして。コンバルト・ランドルフと申します。短い間ですが、よろしくお願いします」

 礼儀正しくお辞儀する男。

 それは、今回の護衛対象に相違なかった。

「……あっ!」

「……!?」

 ヤバい、目が合った。

「この学校の生徒だったんですね、佐久弥さん! これはもはや運命だ!」

「そんなわけないでしょ!」

 思わず突っ込む。

「なんだ鬼道、知り合いなのか?」

「えっ……いや、その……」

 言葉に詰まる。

 任務についてなんて話せるわけがないし、そもそも昨日が初対面で、しかも意味不明なプロポーズをされたなんて、言えるわけがない。

「……」

 嘉村まで私の方を見ている。

 頼む、見ないでくれ。

「……ふふふ、知り合い? そんな間柄ではありません」

 コンバルトさんが口を開く。

「私達は、既に将来を誓い合った間柄なのだから!」

「違うわ! あんたとは昨日会ったばかりでしょうが!」

 嗚呼、神様。

 私になんでこんな災難ばかりよこすんですか。

「……なんでもいいが、彼は今週いっぱいまでこのクラスで共に過ごすことになる。鬼道、知り合いならお前が面倒見てやれ」

「……は?」

 しかも、なんだか面倒まで押し付けられた。

 これは後で所長に連絡と抗議をする必要がありそうだ。

「皆さん、よろしくお願いします!」

 元気に挨拶するコンバルトさん。

 何でこんなことになるのだろうか。

 いかん、頭痛がしてきた。

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