3rd phase-3

 国際空港のロビー。

 多様な人種の方々が行き交う空の玄関口だ。

 私達は今、空港のロビーにて護衛対象が来るのを待っている。

 今回会う相手は、外国の要人のはず。

 そして、こんな人がごった返す場所では、目立つことを控えることが常だと聞いた。

 にも関わらず、

「いやー、空港も久しぶりだねぇ! 国内線は割と乗ってるつもりだけど、国際線は乗ってないねぇ。ああ~、給料上げてほしい!」

「……」

 片や、いつものシルクハットに仮面、そしていつもの純白のスーツの、桔梗院歌留多所長。

 片や、いつもの真っ黒なダークスーツに同色の鍔広の中折れ帽の、風間重一郎さん。

 目立つことこの上ないメンツに挟まれる、いつもの制服姿の私。

 率直に言って、帰りたい。

 百歩譲って、風間さんはいい。所長を瀬見さんと交代してほしい。

「さて、確認しておくけど、相手は皇太子。いわゆる王族だ。決して失礼のないようにね」

 所長に言われたくないが、ぐっと言葉を飲んで頷く。

 騒げば騒ぐほど、ますます目立つと思ったからだ。

「お、どうやら来たようだよ」

 所長の視線の先には、黒服の警護を伴った、スーツ姿の青年が歩いていた。

 褐色の肌に金糸のような髪。

 独特な蒼い瞳は、見るものを引きつけてやまないだろう。

 そんな少年がこちらに近づくと、丁寧にお辞儀をする。

「初めまして。コンバルト・ランドルフです。本日から一週間、よろしくお願いいたします」

 日本式の礼儀作法を示すコンバルトさんは、結構厳しい教育を受けてきたのだろう。

 王族は大変なんだな。

「初めまして。私は桔梗院歌留多と申します。今日から護衛いたしますメンバーのリーダーを務めています。こちらの大柄の男が風間さんで、こちらの少女が鬼道さんです」

 所長も丁寧に私達の紹介をする。

 こんな丁寧に接する所長には、強い違和感を感じてしまうのは、こいつの日頃の行いのせいなのだろう。

「……」

 コンバルトさんが風間さんに、そして私に視線を動かす。

「……ど、どうも」

 緊張しすぎて、変な感じになってしまった。

「……」

 コンバルトさんがじっと私を見ている。

 まずい。失礼だったか。

「す、すみません!」

 慌てて頭を下げる。

 こちらに近づいてくる足音が聞こえる。

 そして、私の前で立ち止まった。

 怒られる。

 そう思ったときだった。

 コンバルトさんは私の手を取り、

 そして、


「なんて素敵な女性なんだ! 結婚してください!」


 なんて言ったか、最初はわからなかった。

 言葉を理解するのに1秒。

 それが自分に向けられて言われたと理解するのに2秒。

「……はぁ!?」

 驚きの反応を返すのに、さらに2秒かかった。

「おや、サクたんにもついに春が!」

「……」

 所長と風間さんもさすがに驚いたようだ。無言のままだが、風間さんは目を見開いている。

「サクたん? 彼女は鬼道サクたんというのですか?」

「違う! 私は鬼道佐久弥だ!」

「鬼道佐久弥? 素晴らしい名前だ!」

 しまった。思わず答えてしまった。

「鬼道佐久弥。美しいあなた。私と結婚してください!」

「えぇ……」

 思わず後退る。

 すると、背中に何かがぶつかった。

「あ、すみません」

 反射的に謝罪する。

「いえいえ、お気になさらず」

 どうやらぶつかったのは人だったらしく、返答が返ってきた。

「しかし、なるほど……」


「これが、今回のターゲット、か」


 その一言で、私達は即座に戦闘態勢に入った。

 瞬時に気持ちを切り替えれたのは、これまでの経験のなせる業だろう。

 わかりやすいな。わざわざ出てきてくれるのはありがたい。

 そう思いつつ、私は刀に手をかけた。

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