3rd phase-2
「さてさて、今回は護衛任務だよ。うちとしては珍しい任務だ」
そう言って所長は珍しくおとなしくデスクに座って説明し出した。
明日は嵐だろうか。
「明日の13時に、中東のバスクメニスタンから要人が日本に来る。目的は日本のとある学園での交換留学のためだ」
「交換留学? ということは、護衛対象は学生さんなの?」
「そうだよ紫苑さん。今はまだ若い皇太子さんがこの日本のとある私立学校に交換留学しに来るんだ。もし期間中、彼にもしものことがあれば、重大な外交問題になるから、そうならないように、かつ失礼のないようにしてね」
失礼どころか胡散臭さが服着て歩いてるような人間が何言ってるんだ。
「……期間は?」
「1週間だよ。それ以上は公務に支障をきたすから、らしい。お上の人も大変だねぇ。せっかくだから日本観光でもして帰ればよかったのに」
私の質問に所長が飄々と答える。
「それで?」
「ん? どうしたの、紫苑さん?」
「どうしたの、じゃないでしょ? あたし達に依頼してくるような仕事なんだから、当然、かなりの厄介ごとなんでしょ?」
「大正解! 紫苑さんに10ポイント!」
そういうと、ピンポンッ、といういつものシルクハットがフタのように開き、10と書かれた札が出てきた。
よかった、明日はいつも通りだ。
「今回、そもそも件の皇太子に暗殺予告が既に届いてるんだ。しかも、この交換留学中に狙うぞってご丁寧にさ」
「まあ、大胆不敵」
「……」
わざとらしく驚く紫苑さんと鋭い視線をさらに細める風間さん。
かく言う私も、若干緊張していた。
皇太子の暗殺。
これが現実のものとなれば、日本の面子は丸つぶれ。
最悪、世界大戦にもなりかねない。
「そんなわけで、明日来日する皇太子の出迎えに、僕と風間君、そしてサクたんが行くことになるから」
「……は?」
唐突に出た声がそれだった。
「私、学校があるんですけど?」
「学校には僕の方から連絡しておくから。大丈夫! こういうのは得意なんだ!」
自信満々に言うことではない。
「あら、もしかして、そんなに学校に行きたい理由でもあるの、サクちゃん?」
「ちょっと黙っててください、紫苑さん」
嗚呼、畜生。
特に学校に思い入れがあるわけではないが、なんだかもどかしい。
「大丈夫だよ、サクたん」
「……所長?」
優しく声をかけてきた所長。
そして、
「……たとえ君の容姿がどんなに子供っぽくっても、むこうは一切そんなことは気にしなあああああああああああ!」
所長が悲鳴を上げてのたうち回っているのは、私が彼に強めの蹴りを入れたからだ。
とはいえ、仕事は仕事だ。やる他ない。
少しだけ、ほんの少しだけ、脳裏にあいつの顔が浮かんだのは、いつもの気の迷いだ。
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