2nd phase-final
「今日のテスト、勉強してきた?」
「……」
「僕は結局一夜漬けだったよ。今も結構眠いんだ」
「……」
「ただでさえ温かくなってきてるのに、ますます眠くなるね」
「……」
いつもの学校。
そしていつものクラスで、そしていつものように、私は目の前の男子、嘉村の声を聴いていた。
先週、気の迷いで声をかけてしまって以降、調子に乗ったこの男は、たとえ私がこうして無視を決め込んでいても話しかけてくるようになった。
それどころか、日を追うごとに話が長くなっている気がする。
しかし、人生とはわからないものだ。
私はこの声に、どこか心地よさを感じていた。
何故かよくわからないのだが、仕事で荒んだ心に染み渡る感じがする。
いくら考えてもわからないので、とりあえず、春の陽気とこいつの声の相乗効果、ということにしておこう。
嗚呼、まだ授業開始まで時間あるから、このまま寝ても……。
「おはよー! ちひろだよっ!☆」
……鬱陶しい声が聞こえた。
気のせいだ。きっとまだ疲れてるんだろう。幻覚や幻聴を感知するくらいには。
「あーっ、鬼道さん見つけたー!」
訂正。幻覚であってほしかった。
「……何?」
「そんなに不機嫌にならないでよ!? ちひろと鬼道さんの仲でしょ!?」
どんな仲だよ。昨日殺しあった仲で友情か?
血生臭すぎるだろ。
「そんな邪険にしないでよ、ね?」
そう言って肩を組んできた。
「何が……!」
「いいの? あんたの『眼』のこと、バラしちゃうよ?」
「……っ!?」
低い声で囁かれる。
冗談じゃないぞ。こんなところで『眼』を出せば、それこそ一悶着あるぞ。
「ちひろの言うこと、聞いてくれるよね?☆」
「……」
思わず舌打ちする。
なんだ、この性悪アイドル。
そして、いい加減その目障りな乳袋を押し付けるな。不愉快だ。
「そうそう、お互い、得にならないことはやめよう、ね?☆」
そう言うと、やっと私から体を離してくれた。
とりあえず、彼女の胸が当たっていたところを念入りにはらっておく。
「……えっと、鬼道さん、上条さんと友達だったの?」
嘉村が話しかけてくる。
「うん! 鬼道さんとちひろはズッ友だよ☆」
そう言って肩を組んだままピースサインするこの女。
……なんか、厄介な奴に目をつけられたな。
何だか、朝から辟易する。
「そういう君は……」
そう言って、突然嘉村を見つめて黙る上条さん。
「……えっと、上条さん?」
嘉村が声をかけると、我に返ったようにハッとする。
「あっ、ごめんね☆ 何でもないの」
「……?」
「それより、君、鬼道さんの友達? なら、ちひろとも友達になろう!☆」
そう言って強引に嘉村と握手をしだす上条さん。
彼女の突然の行動に、嘉村も一瞬驚いたような表情をしたが、なんだか満更でもなさそうに表情を緩ませる。
「……」
なんだろう。
この女と嘉村が仲良くしてると、胸の奥が黒くなる感覚がする。
これも初めての感覚だ。
しかも、自分でもよくわからないが、よくないものだ。
「あはは、これからよろしくね☆」
天真爛漫に見えるアイドル兼極道、上条ちひろ。
本当に、厄介な奴と知り合ったなぁ。
また、ため息がこぼれた。
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