2nd phase-5

「あ~あ、逃げられちゃった」

 倉庫で一人残ったちはるは、残念そうにため息をついた。

「……なんだ、おまえ、黙ってきたのか」

「あっ、仁兄! お疲れ~☆」

 倉庫の奥から姿を見せた仁助に、ちひろは手を振る。

「おう、なんだ、おまえが始末したのか?」

 そう言って、足元に転がる森本の死体を足蹴にする。

「うん! でも、ちひろがやったのは森本だけだよ」

「……そうか」

 仁助は煙草に火をつける。愛用のアメリカン・スピリッツは今日はいつもと違う味がした気がした。

「……」

「なんか、嬉しそうだね、仁兄」

「まあな。あれが『黒拳』か。噂に違わぬ剛腕だったぜ。またやりあいてぇもんだ」

 仁助は煙草を咥え、ニヤリと笑う。

 彼も彼で、なかなか壮絶な戦いを繰り広げたらしい。

 そして、ちひろもまた、己の戦った相手を考える。

「……鬼道さん、か」

 最近、仕事で行けてない学校のクラスメイト。

 その程度の認識だった彼女が、ついさっきまで、こんなにも気持ちを昂らせてくれた。

「……久しぶりに、学校行くか」

 思わず、こんな言葉が出るほどに、鬼道佐久弥との会合は彼女にとって有意義だった。

「さて、帰ろっか、仁兄」

「ああ、そうだな」

 そう言って、ちひろの頭に手を置く。

 そして、

「……それはそうと、俺はついてくるなっつったよな!」

 そのまま頭を掴まれ、身動きが取れなくなるちはる。

 冷や汗をかく彼女の頭を掴んだ仁助は明らかに怒っていた。

「……てへぺろ☆ あああああああああ! 仁兄! 痛い! 痛いから! ごめんなさああああああああい!」

 絶叫が、倉庫街にこだました。

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