2nd phase-4
もう何度切りあっただろうか。
何度も切りあっているうちに、上条さんの戦闘スタイルがわかってきた。
まず、彼女は武道や格闘技の経験はない。
武術や格闘技には一定の型が存在する。これは何も演武のことではなく、構えなども含めたファイティングスタイルのことだ。
しかし、上条ちはるにはそれがない。いや、正確には拳銃ありきのファイティングスタイルがあるのだが、既存の格闘技ではあまり見ない戦い方だ。
言うなれば、格闘技よりも喧嘩に近い。
殺意のある喧嘩、というのが正しいだろうか。
まあ、得物を使ってる時点で殺意満点なのだが。
たまにこういった類の天才はいるらしいことを、私は知っていた。その経験のおかげで、ここまで渡り合えているとも言える。
そしてもう一つわかったことは、彼女は本能的に従った行動で動くことだ。
私が斬撃を避けたから、銃でそれを補う。
懐に入られたくないから、入られないように長ドスを振るう。
そんな、単純な思考を鋭い反射神経で行っているのだ。
最早それは、野生の勘そのものだ。
総合すると、最早武器を持った野生の獣と戦っている状況と言えるのかもしれない。
「あはは、すごいすごい☆」
テンションの上がっている上条さん。
結構な時間殺しあっているにも関わらず、体力があり余った子供のような反応だ。
「こんなに切ったり撃ったりしてるのに当たらないのは初めてだよ! ちひろ、ますます興味出てきちゃった☆」
「……私は、さっさと帰りたいんだけど」
「え~、せっかくアイドルのちひろちゃんと交流してるのに、自身無くしちゃうな」
発言と行動が一致してない。
自信満々に切りつけてくるじゃない。
「……」
正直、体力的につらい。
最近、体の動きが鈍ったような気がする。
また、師匠に稽古をつけてもらう必要があるかもしれない。
まあ、あの人も今どこをほっつき歩いているのかわからないけど。
「あはっ☆ 何だか疲れちゃった?」
嗤いながら近づく上条さん。
「それじゃ、ここでおしまいにしよっか☆」
そう言って私に銃を向けた。
その時だった。
上条さんの後方から、猛スピードで突っ込んでくる車が見えた。
所長の愛車のポルシェだ。
「……っ!?」
上条さんも接近する車に思わず飛び退く。
「さあ、早く乗ってサクたん!」
ドリフトで私の前に盾になるように横付けする所長。
助手席には、先に回収したらしい風間さんが座っていた。
私はすぐに後部座席に飛び込んだ。
「よし、飛ばすよ、つかまってね」
そう言ってアクセルを前回にし、倉庫街を離脱した。
「……」
「いやー、お疲れサクたん! 何だか厄介な連中に目を付けられちゃったかな?」
「……」
簡単に言ってくれる所長を睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「……風間さんの方も、トラブルだったんですか?」
「みたいだよ。よりにもよって、あの『銀狼』が相手で、なかなか手間取ってたみたい」
「……」
本当に手間取っていたのだろうか。
無表情の風間さんからはそんな感じは全く見られない。
「……今回、上条ちはるに『眼』を見られましたけど……」
「ああ、始末なんてしなくていいよ。あんな極道連中の言うことなんて真に受ける奴らなんていないだろうし」
気軽に言ってのける所長。
本当に、この人を所長にしたのは誰なんだ。
「それより、今日はもう疲れたろう? 送ってあげるから休んでなさい」
「……そうする」
所長の言うことに甘えよう。
いくらなんでも疲れた。
「……おやすみ、サクたん」
それが、今日私が聞いた最後の言葉だった。
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