2nd phase-2
「さあて、今日も今日とて仕事だよ! サクたん! 風間君!」
いつも通りウザいな。
私、鬼道佐久弥はそう思った。
いつもの『JSA』の事務所で仕事の説明をしようとしている所長こと、桔梗院歌留多のウザったい言動に辟易している。
現在、この事務所にいるのは私と所長、そして文庫本片手の風間さんの三人だ。
「……で、今日の仕事って?」
「あ、待ってサクたん! 今アイドル『上条ちひろ』のダンスの振り付けしながら……」
「普通に! 説明! しろ!」
「……はい」
しょんぼりとして「せっかく練習したのに……」とこぼす所長。本当に、この男を所長に任命したのは誰なんだ。抗議したいところだ。
「えー、コホン。今回は前回、君達が始末した『スティッキーズ』の残党狩り、かな。今日も今日とて、あの懲りない連中は、今まで麻薬を仕入れていた連中から薬を仕入れるらしい。この取引を潰してきてほしい」
「……場所は?」
「港の倉庫街。この前といい今回といい、あそこって、裏の連中の
嫌だな、そんなデートスポット。
「おぞましいこと言わないでください」
「おやおや、デートはおろか、異性と手をつないだこともないサクたんにこの話は刺激的すぎゅっ!?」
くだらないことを言う所長に蹴りを入れる。
まったく、いつまでもそこでのたうち回ってろ。
そう思っていると、
「チーっス。遅くなりました~!」
元気溌溂な声とともに、黒ギャルが入ってきた。
温かくなってきたとはいえ、まだ肌寒い時期にもかかわらず、タンクトップに短パンといった出で立ちの黒ギャルだ。まあ、それなりには寒いのか革ジャンを羽織っていけど。
お気に入りのヘッドフォンで大音量で流しながらやってくるこの女は、
所長は『セミちゃん』と呼んでいる、主に情報収集担当の大学生だ。
「おお、セミちゃん! 今日も大胆な格好だね。大丈夫? ここ、そういうお店だと思われない?」
這いつくばったまま声をかける所長。
「そんなわけないじゃん! セミちゃんは清純派な女の子だよ!」
そう言って、彼女に与えられているデスクに座った。
瀬見さんのデスクには、数多くのCDなどのディスク、ギャル系の雑誌類が積み重なっている。たまに崩れ落ちて、隣にいる風間さんが困った顔をするのが、ある意味定番だ。
そして、やや疲れているのか、大きく伸びをした。
お願いだからやめてほしい。そのただでさえ豊満な乳袋を強調するのは。私への当てつけか?
「……ん?」
私の視線に気づいたらしい瀬見さんがこっちを見る。
「ちょっ!? どうしたのサクちゃん!? そんな怖い顔して!?」
「……別に」
そう言って視線を逸らす。
別にいいし。いずれ成長するからいいし。
「……あれ、瀬見さん、今日の任務に参加するんですか?」
私は疑問を口にした。
瀬見さんが任務に参加することはめったにない。
もともと戦闘向きではない彼女は、もっぱら情報収集などのサポートがメインであり、そもそもこの事務所に顔を出すのも珍しい。
「え~、あたし戦うとか嫌なんですけど。てか、あたしに戦い求めるとかナンセンスなんですけど」
本気で嫌そうにしている瀬見さん。
予想通りの答えだ。
「それでセミちゃん、何かわかった?」
ダメージから復活したらしい所長が声をかける。
「もっちろん! どうもさ、あの『スティッキーズ』とかいうヤバイ奴らのお相手? あの『八条会』の幹部っぽいんよ。なんか、『スティッキーズ』ってチームそのものって、昔は『八条会』抜けて堅気になろうとした奴らが作ったチームみたい。でも結局ダメで、それを今の『八条会』の幹部の森本ってやつが拾ったっぽい」
「それでそのまま、麻薬の取引相手になったってこと?」
「そうそう。でも、『八条会』の今のトップは麻薬嫌いで有名なんだ。ってことは、森本ってやつは、トップに黙って薬のやり取りしてる場合があるね」
「……」
なるほど。
バカっぽく話してるけど、内容はしっかり話してる瀬見さん。ある意味尊敬できる。
「つまり、『八条会』の森本を始末すれば、麻薬のルートはほぼ潰せるってこと?」
「そゆこと!」
親指を立ててポーズをとる瀬見さん。
「……」
風間さんも彼女のお手柄に親指を立てる。
「あ、風間ちゃんも褒めてくれんの!? いや~ん、もっと褒めて~☆」
「……」
サルもおだてりゃ木に上る、とはこのことだろうか。
気分を良くした瀬見さんは風間さんに抱き着こうとしたが、それを見切っていた風間さんはそれを華麗に躱した。
「……む~」
むくれる瀬見さんだが、風間さんはいつもの無表情で、泰然自若としてる様子だ。
「さてさて、皆の衆。セミちゃんの情報からもわかる通り、今回は特にその森本って人を仕留めることを念頭に置きましょう!」
いつの間にか起き上がっていた所長が高らかに宣言する。
「それじゃ、時間まで自由時間! 解散!」
所長がそう言うと、私は自分のデスクに座り、宿題に取り掛かった。
たまに邪魔をしてきた所長をぶっ飛ばしたのは、これもある意味いつものことだった。
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