1st phase-final

 翌日、私はいつも通り登校した。

 朝のニュースでは、昨日の夜のことは報道されなかった。

 自分でやったことではあるが、私達のスポンサーである人達はどれほどの権力をもっているのだろうか。

 まあ、実際は大して興味がないのだけれど。

 いつものように席について、

「おはよう、鬼道さん」

「……」

 いつものように話しかけてきた男に対して無視をする。

「今日はだいぶあったかいね。もう春だよ」

「……」

 なんでだろうか。

 今日に限って、この男の話を聞いていると、安心するのは。

「ちひろちゃんのCD、売れ行きいいみたいなんだって。今日のテレビで言ってたよ」

「……」

 嗚呼、なんでだろう。

 今日はやたらと、この声を求めてる。

「そういえば、昨日言った喫茶店だけど……」

「……」

 急に嘉村が黙る。

 それと同時に、急に彼の声が聞こえないことに不安になる。

 なんで黙るんだ。

 もっと聞かせてほしい。

 なぜかはわからない。なぜ、今日に限ってこの男の声を聴きたくなってしまっているのか。

 なぜ、今日に限ってこんなにもこの声を求めているのか、わからない。

「……」

 これは、ただの気の迷いだ。

「……てよ」

「……え?」

 そう、これはただの気の迷いなんだ。

「……喫茶店、どうしたのよ、聞かせなさいよ」

 思わず、目の前の男に声をかけてしまったのは、本当に気の迷いなんだ。

 思わず声を出してしまったことに驚き、頬杖をついていた手を崩し、机に突っ伏した。

 顔が熱い。

 胸の鼓動も早い気がする。

 それでも、僅かに見える腕の隙間から、彼の顔を見た。

「……うん! それでね……!」

 嬉しそうに話しだす男の顔が、僅かに窺える。

 嗚呼、鬱陶しい。

 でも、悪い気分じゃなかった。

 

 この一瞬だけ、いつもと同じではなかった。

 なんだか、とても温かかった。

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