23
一人になると、木の葉は空っぽになったバスの待合小屋の中に戻って、さっきまで自分が座っていたベンチの上に座った。そこでなにをするでもなく、小の花にもらった小さな鉢植えの中から顔を出している小さな緑色の芽をずっと見つめていた。木の葉はなんだかとても疲れてしまっていた。(きっと猫探しのために走ったからだ)
そして、ずっと忘れていた過去をなにかの拍子にふっと思い出したかのように、ゆるやかで、でもとても深い、強烈な睡魔が蘇ってきて、木の葉の心と体を支配するようになっていった。
……そういえば、僕はあの自然公園のベンチの上で居眠りをしていたんだっけ? とそんなことを木の葉は思い出した。……そうだ。僕は眠かったのだ。……きっと僕はちょっとだけこの場所で居眠りをするために、この気持ちの良い桜色の四月の風の吹く、春の自然公園にやってきたのだ、と木の葉は思った。自分が眠っている最中、小の花からもらった小さな鉢植えを落とさないか心配だった。そのためにはベンチの上に鉢植えを避難させなければならない。だけど木の葉はそれを手放すことができなかった。ずっと、鉢植えを手に持っていたかった。……贈り物をもらうとき、どうせなら白い手提げ袋ごともらえばよかったかな? と木の葉は思った。小の花も木の葉も、贈り物を贈ったり、もらったりしたあとのことなんて全然考えていなかった。そんなことを思って、木の葉はにっこりと笑ってしまった。それが木の葉がとても深い眠りに落ちる前に思い浮かべた最後の思考だった。
木の葉は、あっという間に深い、深い、眠りの中に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます