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だけど黒猫はその代わり、木の葉のことをずっと、ずっとその緑色の二つの目で見つめていた。
だから木の葉は心の中で「さようなら」と、その生意気な黒猫に言った。
静かな開閉音がして、バスのドアが閉じられた。木の葉が上を見ると、小の花も、三人組の大人たちも、みんなが木の葉に笑顔を向けてくれていた。それからゆっくりと大きな青色のバスが移動を始めた。乗客が全員乗り込んだことで、バスの出発する時刻がやってきたのだ。みんなは高いところにあるバスの窓を開けて、そこから身を乗り出して、木の葉に小さく手を振ってくれた。木の葉も自由になる右手だけで、みんなに手を振り返した。その光景の中に黒猫の姿は見えなかった。きっとあの猫は今頃、小の花の膝の上にでもいて、そこで丸くなって気持ちよく居眠りでもしているのだろう、と木の葉は予想した。
大きな青色のバスが出発すると、そのバスの走る土けむりによって、みんなの顔はすぐに見えなくなってしまった。木の葉はみんなを乗せたバスが見えなくなるまで、バス停の待合小屋の前に立って、その場でずっと、大きな青色のバスに乗って走り去っていくみんなのことを見送った。
大きな青色のバスはそれからすぐに木の葉の視界の中から消えていった。
それと同時に世界から音が消えた。
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